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- 23章 -
-真誠-
しおりを挟むあまりにも唐突な告白に二の次が告げなくなる。
あの時は上手くはぐらかしていたし、そんな奇跡のような悲劇が本当の事だとは思っても見なかった。
「幼馴染みでした。想いを告げる事も出来ないまま、僕の目の前で、手の届かない所へ行ってしまいました」
左手を目の前にかざすと、微かな外灯の光で指輪が鈍く光る。それを、壊れ物を扱うかのようにそっと撫でた。
「これは、その時に彼女に渡すことが出来なかったペアリングです。辛くて苦しくて、残るのは後悔ばかりで、だから、もう大切な人なんていらないって思ってました。それでも、好きになってしまったんです。だから、今度は大切にしたかった。きちんと想いを伝えて、幸せにして上げたかった。その笑顔を曇らせるすべての事から守ってあげたかった。嘘じゃないです。嘘じゃないんです。それなのにー」
喋喋と続く独白に静かに耳を傾けた。
吐き出すことで楽になる事があるのは身を持って理解しているし、自分に何が言えるというのだろう。
誰かを亡くした経験のない自分がいう言葉なんて、きっと光子よりも軽い。
「姉が事故に遭い、また大切な人を亡くしてしまうのではと、今度は、彼すらも亡くしてしまうのではと…それなら、どうせ亡くして後悔するのなら、手遅れになる前に手に入れてしまおうと、差し出してくれた優しいその手に、裏切るような事をーしてしまいました」
御姉さんが事故に遭ったのは文化祭の日だったと聞いている。そして演劇部の面々の様子がおかしくなり始めたのも丁度その頃だ。
裏切るような事というのは、恐らくー……
間違いを起こしてしまう事は誰にでもある。あるけれど、何があったとしても許されないことはある。それが分かっているから、こんなに苦しそうにしているのだろう。
「怯えた顔が、恐怖に歪む顔が、目に溜めた涙が、頭を離れなくて…それなのに、笑って、自分の心に嘘を付いてまで許そうとしてくれた彼の優しさが、余計に辛くて。そんな事をさせてしまった自分が許せなくて、僕に出来ることなんて何もないんだって思い知りました」
それで、距離を置いていたのか…
だから、班乃はー
「そんな彼に手を差しのべてくれた人が居たんです。それはとても鮮やかで、瞬く間に彼は笑顔を取り戻して……その事実に安堵しました。でもそれと同時に、彼に必要で、幸せにする事ができるのは僕ではないと、痛感したんです。だからー」
班乃は安積をー
「彼に全てを託して、好きな人の幸せを願う、そうする事に決めたんです。それしか、出来ないから…」
安積を、安積への想いを、諦める事にしたんだ。
でも全部を諦めるなんて…
『そんな必要はない、よね』
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