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- 23章 -
-真誠-
しおりを挟む某チルドレンの父親が、勝ったな…と呟いた時と同じようなポーズをとりつつ、小さく呻く。
ロングトーンよろしく
呻き続ける。
『なっ、長い長いっ、流石演劇部っ(;´A`)』
息が切れると同時に、組んだ両手に額をつけて溜め息をついた。
「えっと、大丈夫?」
「だいじょばないです」
『うんっ、大丈夫じゃなさそう!?』
「ー…ました」
「ん?」
「失恋しました」
「…そっか」
誰の事を言ってるのかなんて聞くまでもなかった。鈴橋の話、文化祭後からの彼等の様子、今思えば彼だけに見せていた他の人に向けるのとは違う班乃の柔らかな表情が、その全部を物語っていたと思う。
「完膚なきまでに。全部。可能性の一欠片も残すことなく、終わりました。終わらせました。そうしなきゃ駄目なんだって、それが、1番良い方法だと思ったしー」
「うん…」
「そうするしか、なくて」
「そっか…頑張ったね」
小さく、息を飲む音が聞こえた。
そんなの悲しいに決まってる。
辛いに決まってる。
自分の手で終らせるなんて、考えるだけで身が引き裂かれるようだ。
それを決断し行動に移した強さの裏には、きっと途方もなく途轍もない、処理しきれない様々な感情が心を押し潰そうと襲いかかってきた事だろう。
「…明が好きになるくらいだもん。凄く凄く素敵な子だったんだろうね。しんどいよな…」
「こんな人に出会えるのはもう二度とないだろうって思うくらい、素敵な人でした…いつだって明るくて、どんな事があっても前だけ見つめて進んでいける強さを持っていて、誰に対しても臆する事なく優しさを傾けてー」
「うん」
「自分がどれだけ辛くても、いつも誰かの幸せを一生懸命願う。そんな彼にたくさん救われて来たんです。踏み外したその足を、足踏みするその足を、手を引いて引っ張りだし歩かせてくれたのはいつだって安積でした。それだけじゃない。それ以上のたくさんの物を僕に与えてくれたんです。誰かを好きになる事も、時には嫉妬したり、何を引換えにしたとしても、大切にしたいと、幸せにしたいと願う気持ちも」
「…………そっか」
『やっぱせーちゃんの事だったんだなぁ』
会話の中で安積の名前が出て来たことに一瞬焦るけれど、本人は気がついていないようなのであえて聞き流した。
きっと自分が知らないような安積の姿をたくさん見てきたのだろう。それを知らないとしても安積の人間性というのはとても好感を持てるものばかりで、そんな彼から懸命に手を差しのべられたのなら惚れてしまう気持ちも十二分に分かる。
「……以前、綾雪にした例え話、憶えてますか?」
「例え話?」
「クリスマスに、好きな子を目の前で亡くした人がいるって」
「あ、あぁー、告白しようとして、ってやつだよね」
「えぇ。……中3の時でした」
「え?」
「あれ、僕の話なんです」
「…………」
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