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- 23章 -
-真誠-
しおりを挟む「悪かったな。呼び出して」
「いえ、大丈夫ですよ」
「あまり長く付き合わせるのもあれだし、なるべく手短にとは思うんだけど…」
「特に予定はないので気にしないで良いですよ」
「そう。…あのさ」
「えぇ」
「ごめん」
「……はい?」
『……ごめん?ごめんって…?』
まさか謝罪されるなどとは夢にも思っていなかった班乃は驚き市ノ瀬を見やる。市ノ瀬からしたら大切な人を傷つけられたのだから怒り心頭で来られても不思議ではないし、確実にそうなると思っていた。
なんだかデジャブだ。つい最近安積とも同じようなことがあった。酷いことをしたのは自分なのに、彼も自分に謝罪してきた。その上ー…
思い出される出来事に、その時下した自分の判断に自責の念や後悔が大きく押し寄せる。正しい判断だったとは思うけれど、それでも今は苦しみが大きい。
「お前が安積に何をしたのかは、なんとなくだけど分かる。なんでそんな事をしたのかは全然分からないし、だからって聞いても答えられないと思うからそこは聞かない。でも安積にしただろう事に関しては、本当に…本当に、めちゃくちゃ腹が立ってる」
「えぇ。当然、だと思います」
「あいつが止めなきゃ殴ってたかも」
「そうだったとしても、貴方を叱責する権利なんてないですよ。僕には」
逃げる事なく安積を好きだと宣言し、堂々と牽制を張り、あの日からずっと安積の側で支え守り続けていたのは市ノ瀬だ。遊園地の事だって、たまたま安積を連れてったんじゃない。安積を連れていったのだと思う。
それ程大切に思い行動にも移している市ノ瀬からしたら、自分に対して憤りを感じるのは瞭然たる心理だ。
今更、痛感しても遅いのだけれど
思うだけでは駄目なのだ。
今日の安積を見て確信した。
「安積を傷つけて苦しませて、悲しませて。それなのにいつも通りにしてるお前に、辛い筈なのに1人で溜め込んで張り付けたように笑う安積にも腹立ってた。でもそれは2人が周囲に気を使ってたんだって、遅くなったけど気がついた。攻撃的な事も言ったし…だから、ごめん」
「貴方が謝る必要はないです。そもそも、僕が悪いんですから…」
きっと、自分では
安積を幸せにするなんて到底出来ない。
なにを言い訳にしたって
許されない事がある事は分かってる。
トラウマ? だからなんだ。
大切にしたい? 耳を疑うしかない。
傷つけたくない? 一体どの口が言ってるんだ。
あの時、自分の頭の中にあったのは誰の事だった?
優しく差し出してくれた手を取り、酷く傷つけた。
救いだしてくれたのに、同じ過ちを繰り返した。
口では立派な事を言いながら
自分がした事はなんだった?
どんな言葉もどんな理由も免罪符にはなり得ない。
ただ、自分が弱かった。
ただ、自分が成長していなかった。
それだけだ。他の誰にも、罪や落度などない。
泣き顔が、怯えた顔が、震える体が
あの日から頭を離れない。
無理して笑うその顔を
自分にはどうすることも出来ない。
脳裏に保健室での一件がよぎる。
自分は、安積にー…
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