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- 23章 -
-真誠-
しおりを挟む『なにやってんだか…』
朝一、大抵自分より早く登校している安積の姿がないことに気がつき直ぐにLINEを飛ばした市ノ瀬だったが、なかなか既読がつかず漸く連絡が返ってきたのは3限目の途中、たった一言。
“寝坊したっ!”
だった。
授業が終わり教室を出ていこうとする教員に向かい、安積寝坊だそぅでーす、と誰にも隠すことなく伝えると、全員の顔に安堵が浮かんだ。
心配かけさせやがって寝坊かよーと文句を言うクラスメイトですらそうなのだから、安積の人となりがよく見える。
恐らく来るのは昼休みくらいになるだろう。
『まぁ、ある意味ちょうど良かった。安積が居たら言いづらいし…』
少しばかり逡巡する気持ちがないわけじゃない。でも、進むって決めた。安積の為に、安積が望む自分達の為に。移動教室へ向かおうと教科書を準備する班乃へと近づき声かけた。
「明」
「なんです?」
「今日放課後、少し時間作れるか?」
「…えぇ、大丈夫ですよ。今日は自主制作の方もないですし」
どれだけ賑やかに笑みを浮かべようとどれだけ穏やかに返事をしようと、隠しきれていない返答するまでに空いた間は安積に関しての事柄を聞かれるのだと感じ取ったのだろう。
「さんきゅー。安積と別れたら行くから、駅で待っててくれ。そんな時間はかけさせねぇから」
「分かりました」
頷き側を離れていく市ノ瀬には目もくれず、班乃は無意義に教科書へと視線を落とした。
通常駅までは3人一緒で、そこから電車、徒歩、バスとに別れる。電車を利用する自分にわざわざ駅で待っててほしいと言うことは、安積に知られないようにしたいのだろう。
自分としても安積に余計な心配はかけさせたくないという思いは同じなので、その提案に異論はない。
自分もいつまでも逃げ続けるわけにはいかないし、市ノ瀬にはきちんと伝えておかなければならない事がある。それが安積の為にもなるのだから。
『……分かっては、いるんですけど』
それを伝えてしまったら自分に残されるものは何もかも失くなってしまう。基より無かったのかも知れないけれど。
言わない選択肢にすがり付きたくなる気持ちが首をもたげかける。
でも、決めたのは自分だ。謝絶したのも自分だ。
後悔はしてる。でも慥かな事だったと思う。
気を抜くと直ぐに姿を表そうとする嘆息を、息を止めて押し込めた。
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