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- 23章 -
- 創始 -
しおりを挟む「「疲れた……」」
どちらともなく言った言葉は見事にハモリ、目線だけ合わせて小さく笑いあった。あれが怖かった、あそこが凄かった、あれが楽しかった。
今日1日の事をぽつぽつと話ながらタイミング良く始まったウォーターシンフォニーを眺め、しだいに会話も途切れ途切れになりただ景色を眺めるだけの時間が過ぎる。
通りすぎていく遊び疲れ心地よい気だるさを含んだ人々の声や、ライトアップされ代わる代わる色を変えキラキラと光る水の動きや水音が心を落ち着かせていく。
座り込む前に買った暖かい飲み物を頬にあてぼんやりと白い息を吐く安積の姿に、全力で楽しんだがゆえの疲労が浮かぶその表情に、愛おしさが募っていく。
「…なぁ、安積」
「んー?」
「最後にあれ、乗らないか?」
市ノ瀬の指が指し示す方向を一瞥した安積は、驚いたような表情で再び市ノ瀬へと視線を向けた。確かにそのアトラクションが好きだとしても男2人で乗るようなものではないので無理はない。
「まぁ、景色が良いから1回は乗って損はないって…誰かが言ってた」
「誰かってww」
なにその適当な感じ!と言いつつも静かに笑った安積はゆっくりと立ち上がり、クルリと回って市ノ瀬を振りかえるとライトアップされた噴水を背に手を差し出した。
「それなら乗っておかないとねっ!」
その光景に市ノ瀬は自分の中にある気持ちがどんどんと膨らんでいくのを痛い程に感じていた。けれど、今日1番伝えたい事はその気持ちではない。
これからやろうとしている事は今日1番の目的の1つであり、言わば正念場というものだ。
ちなみに1番の目的のもう1つは、安積に心から楽しんで貰う事であり、これはミッションコンプリートと言っても問題ないだろう。
差し出された安積の手を借り立ち上がると、2人並んで最後のアトラクションへと歩きだした。
『15分か…』
列に並び長いようで短い時間を横目で確認すると、イルミネーションを見つつ順番を待つ。足元にお気をつけ下さいと声をかけられ、先に乗り込んだ安積に続き足を踏み入れると向かい合うように腰を下ろした。
「頂上、楽しみだな!野球見れるかな?」
「さぁ。どーだろうな」
控えめに言って野球に興味はなくいつやっているかすら分からない。夏になると数時間はチャンネル占領するよなぁくらいの認識しかなく安積の問いには答えられなかった。そんな市ノ瀬が唯一言えるとするならば、延長で番組が押し押しになったり中止になるのが嫌なくらいだった。
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