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- 23章 -
- 創始 -
しおりを挟む眠気にぼんやりしてる間に結構経っていたようだ。何時になるか分からないけど帰りにでも買って帰ろうと購入を諦め浮かした腰を再び下ろした。
「飲むか?」
「…えっ?良いのっ!?」
「駄目なら言わねぇよ。氷で少し薄まってっけど」
「えっ、全然大丈夫っ!えー…嬉しっ! ありがとうっ!」
シェアしあうのは好きじゃなさそうだと思っていた矢先のその申し出に内心驚きつつ、指先で押し出されたカップをお礼と共に受け取ると期待に胸を踊らせながら一口含んだ。
「う…っまぁ!主張しすぎてないのにちゃんと蜂蜜の風味する!うま!甘っ!」
「…良かったな。全部やるよ。たいして残ってねぇし」
「えっ!良いのっ!?ありがとー!!」
お言葉に甘えて素直に貰う事にするともう一口口に含んだ。口内に広がる幸せな味は今度ちゃんと頼んで飲んでみよう!と思うくらいの想像以上の美味しさで自然と頬が緩んでしまう。美味しいものは正義だ。
しかしだからこそ、貰う一方なのは悪い気がして…
でも自分が頼んだのはー
「…睦月?」
「なんだよ?」
「~っ、飲むっ??」
「いらねぇよっ!」
「やっ、だって貰う一方なのはっ、悪い気がしてっ」
「笑いこらえて言ってんじゃねぇっ!」
『あー、やべぇ、おっかしいっっw』
俯きお腹に手を当て笑いを堪える安積に、不機嫌を隠すことなく表情に押し出した市ノ瀬は上着を羽織って立ち上がった。
「あっ、待ってっ!」
「うるせぇ、早くしろ。3秒間待ってやる」
「えっ、そこ分でしょぉっ!?」
手厳しい条件に残っていたブラックコーヒーを慌てて喉に流し込むと、言葉通り3秒立ち止まった後背を向け店外へ歩きだした市ノ瀬を慌てて追いかけた。
「で、どこ行くんだよ?」
「行けば分かる」
「いや、でも電車乗るならチャージしないと」
「乗り越しすれば良いだろ」
『あーこれ、絶対教えてくれないやつだ』
なぜそんなにも秘密にするのだろうか?
なにも伝えられていないことが忘れかけていた不安を余計に助長させ、あまりにも普段通りだった先程の時間で軽くなった気持ちを一気に急加速させていく。
『…そうだよな。酷い事したくせに…なにいつも通り笑っちゃってたんだろ、俺』
いくら市ノ瀬が普段通りに接してくれたとしても、まずはもう一度謝るべき所だったはずだ。
謝るタイミングをうかがいつつ市ノ瀬の後を追いかけるように電車に乗りこむと、通勤ラッシュも落ち着き乗客の殆んど居ない座席に並んで腰を下ろした。
緩やかな振動と足元から吹く暖房、さらには窓から差し込み背中を暖める日差しが強烈な眠気を誘う。これはいくらカフェインをとったとしても、睡眠が十分だったとしてもウトウトしてしまうやつだ…
「なぁ」
「なんだよ」
「目的地までどれくらい?」
「多分1時間…か、もうちょっとか」
「そう…悪いんだけどさ、ちょっと寝ても良い?」
「良いよ別に。断りいれなくても」
「ごめん、ありがと」
少し仮眠とって頭をスッキリさせたら、今度こそちゃんと謝ろうと心に決め鞄を腹に抱えて頭を落とすと、
『あー、これ、秒で寝れ…』
と思う間もなく秒で夢の中に落ちていった。
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