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- 22章 -
- 不調和 -
しおりを挟む「痛゛っ」
「ちょっとむっちゃん!?家の子に気安く触らないでもらっ…痛゛っ!?」
握り潰す勢いで掴んだと思いきや、何故だか植野までもが痛がって椅子に崩れ落ちた。
『なにがあった!?』
「もういい。帰る」
「えっ、ちょっ、ちょっと待って俺も行くっ!」
付き合ってられんとでも言うように吐き捨て出口へと向かう鈴橋に続き植野も席を立った。立ち上がり際に数度脛を擦っていたのでどうやらテーブル下で蹴飛ばされでもしたのだろう。
「せーちゃんっ、むっちゃん!また明日っ!!」
「おー」
「またねー!!」
自分達に手を振った植野が鈴橋に追い付き2人並んで店を出ていく姿を見えなくなるまで見送るも溜め息と共にテーブルへと向き直った。
人の事を言えた義理ではないかもしれないが、鈴橋は些か言葉が鋭すぎる。それなりに付き合いを重ねていけば悪い奴ではないと言うことは分かるのだけど…しかし。
どうやら鈴橋もなにかに気が付いてはいるようだ。
自分以上になにも知りえない状態であるにも関わらず安積の変化に気が付くのだから、意外と勘が鋭いのかもしれない。
言葉と目付きの鋭さはもう少しどうにかして欲しいとは思うけれど。
しかし言葉はさておきだ。
鈴橋の言っていたことには共感できるものがある。
「ん? なに?」
「いや」
まだ残っているナゲットを幸せそうに頬張っている姿に無意識に目が行く。一瞬不思議そうな顔をするが、なんでもないと返せば再び笑顔を浮かべつつ美味しそうに食べ始めた。
笑顔 笑顔 笑顔が
その笑顔が
不自然なほど常に張り付いている笑顔が
『…気持ち悪い』
嫌いだ。
こんな風に笑う奴じゃなかったのに…。
腹を満たし帰路に着いた頃には、いつの間にか訪れの早くなった日暮れが過ぎ去り街の街灯がフルに仕事をし始めていた。寒さが肌を包み込み自然と歩みも遅くなる。
「あー、食いすぎたぁーお腹いっぱーい、苦しー、幸せー」
「食いすぎなんだよ、お前は」
「だって暫く行かない間に新メニュー沢山出てたからっ!そんなん食べるしかないじゃん!」
試したくなる気持ちは分からなくもないけれど、ならば新メニューだけにして無駄に定番メニューをも頼まなければ良いのでは…と思う。
膨らんだ腹を両手で押さえ、白い息を吐き出しながら歩くスピードは遅い。まるで食べすぎたどっかの神みたいに。
「寒いな」
「ねー11月半ばだもん。早いなぁ」
空にはどんよりとした雲が流れ今にも雨がふり出しそうだ。凍えそうな手をポケットに突っ込みそろそろ手袋かホッカイロが欲しい季節だな、とぼんやりと考える。
「今年は雪、降るかな」
「さぁ。降るにしてもまだ先だろ」
「だね。降らなきゃ良いなぁ」
その言葉は少し意外だった。率先して雪遊びしてそうなイメージがあるのだけど。
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