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慰弦

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- 22章 -

- 不調和 -

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「でももしかしたら、また傷つけてしまうこともあるかもしれません。安積だけじゃなくて、僕が大切だと思う人達全てに対しても。そうならないように気をつけて行きたい。そう、思います」

「そう」

「睦月にも、迷惑をかけてしまいました。すいません」

「俺は別に…」

「迷惑ついでと言ってはなんですけど…」

「なんだよ」

「僕がまた、間違いを起こして誰かを傷つけてしまいそうになった時はー」


屋上の扉に手を掛けて一度立ち止まり市ノ瀬へと振り返り悲しそうな笑みを浮かべた。


「ぶん殴ってでも、止めてくださいね」

「……は?」


返答を聞くことなく屋上へと足を踏み入れた班乃は、既に到着していた植野達に声をかけつつ足早に市ノ瀬の側から離れていってしまう。


「……どういう意味だよ、それ」


その言葉の真意は気になるところだが、既に植野達と合流し昼食を準備を始めている為問いただすことは出来そうもない。

『まぁいい。もしまた安積を傷つけることがあった時はってお墨付きを貰ったんだ。そん時は遠慮なくぶん殴る』

決意を新たに、市ノ瀬も皆と合流する為に屋上へと足を踏み入れた。


「みてみて!なんかちょー不味そうなの売ってた!」

「なになに!…闇鍋ジュース!?なにそれ、ちょー不味そうじゃんww」

「また無駄遣いを」

「なに言ってんのがっくん!?こういう冒険心が新たな発見を生むんだよ!!」

「……そうだな、それもそうだ。じゃぁ」


ちょー不味そうな飲み物を片手に掲げスライディングする勢いで座り込んだ安積の手からそれを奪い取った鈴橋は、躊躇うことなくふたを開けた。鼻を突く香りに顔をしかめる。

まさか飲むのか!?

と、一同の視線を集める中、珍しい程の笑顔を浮かべた。


「懇切丁寧に冒険させてやるから口を開け」

「えっ!?ちょっ、ちょっと待って!!心の準備させてーー!!」

「煩い。冒険したら少しはその口も大人しくなるだろ?」

「ごめんって!出会い頭喧しくしてすいませんっ!!」


顔の前で両手を合わせて謝る安積に、溜め息と共にジュースを返した。しかし折角買ったのだから味見しないのは勿体ない。

しばしそのジュースとにらめっこした後、ゴクリと唾を飲み込み遠慮気味に口を付けた。


「~~っっ!!」

「どう!?どうっ!?せーちゃん!!」


興味津々に訪ねてくる植野に無言でジュースを差し出した。恐る恐る受けとるが、その時点で漂う香りに相当ヤバイものだと言うことは間違いはない。

でも、気になる………

匂いを嗅がないよう口呼吸で深呼吸を繰り返した後、意を決したように一口口に含んだ。


「ん゛ん゛ぅ゛ぅぅーーーっ!!」


安積と同じように声にならない呻き声をあげながら、涙目になりながら闇鍋ジュースを鈴橋へと差し出す。

呆れたようにそのジュースを受けとると

鈴橋は


蓋を閉めた。


「ちょっとがっくん!?今のは飲む流れでしょ!?」

「生憎、答えが分かってる冒険はしない質でな。ありがとう、教えてくれて」

「えっ!?どういたしまして!?」

「……ほんと、安積は素直ですね」

「馬鹿とも言うけどな」


飲み物を買いに行った安積が戻ってきた後、文化祭から先ほどのことが嘘のらようにいつも通りの時間が過ぎていった。
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