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- 22章 -
- 見えない -
しおりを挟む「…では、僕は授業に戻りますね」
「うん。昼休みには戻るから」
「えぇ、ではまた後で」
「うん」
『3限目、さぼらせちゃったな…』
保健室を出ていく班乃を見送り、ドアが閉まると同時にベッドに倒れ込んだ。
『なんだか、頭、動かないや』
なにが正解だったのか、どんどん分からなくなってく。
不完全でもこれで良かった。
それすらも言えそうもない。
手が届きそうになって、届いたと思ったらまた遠のいてくようで。どうやったって、自分の望みは叶わないのかもしれない。
前のようには、どうやったって、戻れない。
でも、きっと、お互いに悩んで悩んで、全てに納得できる選択肢が1つもない中で、今出きる一番良い選択肢を選んだんだと思う。
「これで良かったんだ」
そう言わないとやっていけなさそうで、声に出して形にしてみる。
「これで良かった」
気持ちを固めるように再度声に出し閉めきっていたカーテンを開けると暖かい陽射しが入り込んできた。暗闇に浸かっていた心が、少しだけ浮上していくような気がする。
両手を組んで頭上に持ち上げ大きく息を吸い限界まで背をのばしてから、少しずつ息を吐き出すと同時に体の力を抜き両手を下ろす。
『平常心平常心。
大丈夫、出来る』
戻る準備をしようとベッドに置いておいた上着に手を伸ばすが、そこにある筈がいつの間にかなくなっている。もしかして、と下を覗き込むと案の定落っこちていた。どうやら寝ている間に落としてしまっていたようだ。
ベッドの上から手を伸ばし拾い上げると、ポケットからなにかが落ち固い音を響かせる。
『なにか入れてたっけ??』
ベッドから降りて音の原因を探すと直ぐに原因を発見し、入り込む陽射しに拾い上げたそれをかざすとキラリと綺麗に輝いた。
「あぁ、そういえば、渡しそびれてたな」
それは班乃と共に文化祭で作ったキーホルダーだった。市ノ瀬にも渡そうとポケットにいれたまま、色々とあって渡しそびれてしまっていた。
3人お揃いなんて……。
『今渡したって嬉しくないかもしれないな』
両手でぎゅっと握り締めてその場に座り込んだ。
「ごめん睦月。俺、間違ったかも……」
居てもらえば良かったかな?
でも、市ノ瀬の前で出きる話しではなかった。
それなのに、側に居てくれればもっと上手くやれたかも、なんて矛盾した都合の良い事を考えてしまう。
〖甘えん坊か、ばーか〗
〖………たまには、良いだろっ〗
〖いいよ、いつもでも〗
ふと、昨日交わした会話を思い出す。
甘えても、良いのだろうか?
本当に、迷惑じゃないだろうか?
けれどそう何度も何度も好意に甘えていたら市ノ瀬の負担にもなるし、その内に自分一人では何も出来なくなってしまいそうで…それは駄目だとなんとか思い止まる。
でも、せめて…
「気持ちの拠り所って、思うくらいは良いよな」
“ごめん”と心のなかで呟き、キーホルダーをポケットに閉まった。
いつか、渡せる時が来れば良いと考えながら。
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