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- 22章 -
- 見えない -
しおりを挟むトイレに行きたいなんて嘘だ。
あの場に居たくなかっただけだ。
みっともなく泣いてしまいそうで。
一体いつからこんな涙もろくなってしまったんだろう。
トイレに行くと言ったその足は自然と保健室へと向かっており、ノックをして入ると養護教員である葉斗が丁度鞄へと色々と詰め込んでる所だった。
「あれっ、どうしたの?」
「ごめーんセンセー。ちょっと調子悪い」
「大丈夫?喘息?」
「んー……分かんない。でもちょっと休みたい」
「もちろん、良いよ。でもこれからちょっと出なきゃいけなくて。薬はちゃんと持ってる?1人で平気?」
本来なら自宅に帰すべきだろうが、帰したところで安積は1人だ。ならまだ近くに誰かが居る学校の方が安心だろう。
「へーきへーき、薬持ってるし、慣れてるし」
「分かった。でも何かあったら直ぐに誰かに声かけてね。職員室に居る先生達には声かけてくから」
「うん、ありがとー先生。先生もお仕事ふぁいとー」
「ありがと…じゃぁ、ちゃんと安静にしててね」
「ありがとー」
心配そうに振り返りながら保健室を後にする葉斗を見送ってから、ドアが閉まるとベッドへと潜り込んだ。
チャイムが鳴り授業が始まると休み時間のざわめきが嘘のように成りを潜める。
意味もなく真っ白な天井を見つめ、今朝部員から聞いた話を思い出す。
姉が事故に遭ったことを班乃自身から聞いたと。
自主制作映画に参加することになったと。
たったそれだけだ。
たったそれだけなのにー...
班乃だって子供じゃないのだから、なにがあったのか自分で説明するくらい出来るだろう。
おんぶにだっこされなきゃなにも出来ないなんて事は決してなく、元々がしっかりしてるタイプだ。そもそも自分が何かしなくともどうにでも出来た筈だ。
それにずっと行動を共にしなきゃいけないわけでもないのだし、やりたいことが違える事だってあるだろう。何かを始めるからと言って絶対に自分に声をかけないといけないわけではない。
『分かってる…分かってるよ。でもー』
今まで当たり前に一緒に過ごした時間や共有したお互いのことが、班乃に取ってはなんら特別なものなんかじゃなくて、お前なんて必要ないと言われているようでー
避けられたようにも感じたそれすらも、そう感じているのは自分だけで、班乃からしたら1人でコンビニに行くくらいの感覚なのかもしれない。
それは自分が班乃にとって
たいした存在なんかじゃないって言われたようで。
一昨日の事よりも、今日のこの事の方がーー
「そっか…そっかぁー……」
声をあらげるわけでもなく、静かに流れる涙を拭うこともせず、そのまま目を閉じた。
「あぁー…寂しいなぁ」
声に出せばその思いがより一層強くなってしまったように感じた。
「辛いなぁ……」
いや、強くなったのではなく、もやもやした形のない気持ちをちゃんと理解できたと言った方が正しいかもしれない。
「もう、いいよ。こーなるなら…もう、いい」
腕で目元を隠して、流れ出る涙を覆い隠す。
これ、目腫れるだろうな……と、どこか冷静に考えながら、どうせ誰も居ないし、と止めるのとなく自然に任せた。
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