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- 22章 -
- 見えない -
しおりを挟む授業中、ノートを取る手が何度も止まり、思い出したようにまた取り始める。
自分の前の席な為否応にもそんな様子が目に入ってしまう。ヤキモキしながら時間が過ぎるのを待ち、礼が終わった後教科書をしまうのも漫ろに安積の肩へと手を伸ばした。
「…なに?」
少しの間の後、返事と共に振り返った安積の手首を掴むと困惑の声を無視し教室外へと向かう。通りすがり班乃と目があったが、何事もなかったように目を反らしたその態度に余計苛立ちが増した。
しかし今は安積に話を聞くのが先だ。苛立ちを隠すことなく表情に出しながら、近くにある使われていない教室へと入る。
「いきなりどーしたんだよ?」
捕まれた腕が痛かったのか、それでも大人しくついてきてその手首を擦った。うっすらと笑みを浮かべて居るものの目に光がない。
「それはこっちの台詞だ」
「なんで?別に、いつも通りでしょ」
あーもう。
腹立つ。
笑ってるのに、笑ってないその顔。
本当に腹立つ。
「いつも通りに見えないから聞いてるんだけど。朝なにがあった?」
「なにがって……別になにも」
「………そうかよ」
なんだか見えない壁があるようで、その言葉には拒絶が含まれていて。どうすれば良い?
こういう時は、どうすれば良い?
「あ、そうそう」
かける言葉を探している最中、今思い出したと言うように安積が口を開いた。
「あっきー、たぶん暫くは一緒に登下校出来なさうだよ」
「……なんで急に?」
「自主制作映画、参加するんだって」
「………」
「どーしたんだろうね。今まで参加してなかったのに。新しいことにでも挑戦したくなったのかな?」
「……さぁ、どうだろうな」
なんだよ、それ。
そんなのまるでー……
「まぁ、挑戦するなら、応援、しないとね!」
軽く握った拳を顔の横に持ち上げ作った笑顔が胸に突き刺さる。
どうしたんだろうねと言いながら、きっと安積だって気が付いているはずだ。
「話、それだけ?」
「えっ?」
「トイレ行きたい」
「……あぁ」
「じゃ、また後で」
笑顔で手を振り教室を出ていく姿を見送ってから、その場に座り込んだ。誘うこともせず、参加することも言わずになんて。
そんなの、まるでーー
安積を避けているようなものじゃないか。
あからさまに避けるような態度を取って、それでもいつも通りの挨拶してー
「そんな卑怯なこと、するとは思わなかった…」
一昨日なにがあったのか知っていればもっと動けただろう。でも憶測でしか知り得ない今の現状では限度がある。
なにもなかったと言い張られてしまったらなにも出来ない。とはいえ、無理に聞き出すことも出来ない。
なぜ自主制作映画に参加することにしたのかだって、問いただした所で上手くかわされるのがオチだ。
どうしたって2人と自分の間には壁があるように感じてそれを壊せる気もしない。
でもそれじゃ駄目だ。
『取りあえずなにか方法を探らねぇと』
こんな上部だけの関係を望んでるわけじゃないはずだ。特に、安積は。
今はなにも思い浮かばないけれど、考えるのだけは止めたら駄目だ、考え続けていればきっとなにかが思い浮かぶ……はず。
微かに過った弱気な言葉をふき飛ばすように頭を降って教室へと戻った。
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