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- 22章 -
- 哀 -
しおりを挟む「あのさ……」
「んー?」
食事も終わりに近づいてきた頃、不意に安積が口を開いた。美味しい食事中だと言うのにその顔はずいぶんと沈んで見える。
「昨日はほんとごめん。あっきーの事とか…あっ、お姉さんの事、聞いてたよな?」
「あぁ」
「その、お姉さんの事とか、文化祭の事とかで結構テンパっちゃって、わりと頭が疲れてたと言うか…発作も起こしちゃって、言ってなかったから焦らせたなって。お前だって疲れてたのに、そのせいで帰れなくさせて…申し訳なかったなって」
「……なんかお前」
「ん?」
『謝ってばっかりだな』
テンパったのだってそれだけじゃないだろうに…
食事最後の一口を飲み込んで盛大な一息をつくと、怒られるとでも思ったのか安積が焦ったように背筋を伸ばした。
「えっ、なになにっ!?なんかごめんっ!?」
「いや、いいから別に。俺は俺がしたいことしかしねぇし。逆にそんな謝られたら俺が悪いことしたみてぇじゃねぇか」
「ごっ……」
「…………」
「………えっと」
次いで謝ろうとした言葉を慌てて飲み込んだ。言葉を探すように視線を彷徨うわせる姿が微笑ましい。
「その……あり、がと」
「どういたしまして」
絞り出したように礼を述べた安積に満足げな表情を浮かべた市ノ瀬が食べ終わった食器を重ね台所へ向かうと安積も自分の食器を手にその後を追った。
自然と2人並んで洗い物を始める。なんだかこの状はいつもの安積と班乃のようだ。そこに自分が居るのが不思議で少し落ち着かず、更には何かを伺うように自分をチラチラと見てくる安積の視線がなんだか気まずい。
『…そりゃ、前までは上げ膳据え膳だったけどさ』
最近はちょくちょくやるようにしてるんだから少しは慣れてほしい…と、自分を棚に挙げている考えが頭に浮かぶ。
「あのさ…」
「んだよ」
そんな中話しかけられ気まずさから少しばかりぶっきらぼうな返しとなってしまったが、安積は特段気にした様子もなく拭きものをしていた手を止め真っ直ぐに市ノ瀬を見上げた。
「ありがと」
「さっき聞いたって」
「心配、してくれてありがと」
「…おー」
「洗い物もありがと」
「ん」
悪いことをしてるみたいだと言ってから、今度はありがとが増えすぎて、これはこれで少し困る…
「それと…、その……」
気恥ずかしさから目を反らしたが言葉を区切り反応を待つかのような間に再び視線を戻すと、照れたように笑う安積と目があった。
「1人暮らし、流石に慣れたけど、やっぱり誰かが側に居るって良いなぁーって。なんかホッとしたというか…無駄に熟睡しちゃったw 目が覚めて、お前が隣に居てくれて嬉しかった。 だから、ありがと。帰らないで居てくれて…一緒に居てくれて、ありがとうっ」
それだけ言うと照れ隠しのような笑顔を残し逃げるようにしてリビングへ戻る安積を黙って目で追った市ノ瀬は、追いかけることも出来ずその場に静かに座り込むと盛大なため息をついた。
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