Pop Step

慰弦

文字の大きさ
上 下
516 / 1,150
- 22章 -

- 哀 -

しおりを挟む


「違う、これは違う。安積は関係ない。健康体なだけだ……」


某旅人のように夜明と共に起き…とはいかず大分日が昇ってから目が覚めると、右腕の感覚がない事に気が付いた。何事かと見た先には形の良い黄色いものが乗っかっている。

そして感じた自身の異変に、誰も聞いていないが言い訳をした、そんな一日の始まりだった。

右腕に血液を送ってやりたい気持ちとこのままでいさせてやりたい気持ちとで戦っていると、その黄色いものがピクリと動き反射的に寝たふりをする。

起き上がった気配を感じたが、寝ぼけているのかそのまま動かずボーッとしているようだ。見られてるかどうかは分からないが視線が痛い。

暫くすると右腕を擦られるような感覚が何度か行き来し、毛布を掛け直されたかと思うと静かな扉の開閉音。そしてゆっくりとした足音が遠ざかって行った。


「………かわいいかよっ」


自覚できるほどの紅潮と爆発しそうな感情を押さえ込んでいる最中シャワーの音が聞こえ始める。感覚が戻ると同時に半端なく痺れ始めた右腕を抱え込むと思いっきり背中を丸めた。


「持っていかれたっ」


足でも手でもないけれど…
なんかもう、色々持っていかれる。

『ってかあいつ、着替え持って出なかった…よな』

シャワーを済ませた後、高確率で着替えをとりに戻って来る筈だ。それは今暫く寝たふりが続くことを意味し、来るべきその時に備え冷静さを取り戻すために大きくため息をついた。


「あっ、おはよー、睦月!」

「……はよ」


案の定着替えをとりに来た安積を寝たふりでなんとかやり過ごし、平常心を取り戻し部屋を出たのはそれから20分後くらいの事だった。


「えーと、朝飯どーする?じゃなくて、先風呂行って来る?昨日、入れてないよな?」

「あー…まぁ、そーだけど。んー………」


髪も体も気持ち悪いし汗を流してさっぱりしたい。不潔なままで一緒にも居たくないし普通に入りたい。

入りたいのだけど……


「気持ち悪いだろ?着替えとか出しとくから、行ってこいよ」

「………そうだな」


恒例のお泊まり練習で着替えが置いてあるのがある意味災いした。今すぐに帰れば良いだけの話ではあるのだが、なんだかんだ3人で居ることが多く2人だけで居られるのはわりと貴重だ。

そう思うと直ぐに帰るのは勿体ない気がして、苦渋の末風呂を借りることにした。


「あっ、さっきまで使ってたから暖まってるよ!」

「……あぁ」


ただ単に、寒くないから快適だよ!くらいの意味で言ったのだとは思うが、今は妙に生々しく聞こえる。邪な考えをなんとか追いやり“飯てきとーに作っとくよー”と言う声を背中に受けつつ風呂場へと向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。

riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。 召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。 しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。 別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。 そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ? 最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる) ※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

BlueRose

雨衣
BL
学園の人気者が集まる生徒会 しかし、その会計である直紘は前髪が長くメガネをかけており、あまり目立つとは言えない容姿をしていた。 その直紘には色々なウワサがあり…? アンチ王道気味です。 加筆&修正しました。 話思いついたら追加します。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

処理中です...