516 / 1,142
- 22章 -
- 哀 -
しおりを挟む「違う、これは違う。安積は関係ない。健康体なだけだ……」
某旅人のように夜明と共に起き…とはいかず大分日が昇ってから目が覚めると、右腕の感覚がない事に気が付いた。何事かと見た先には形の良い黄色いものが乗っかっている。
そして感じた自身の異変に、誰も聞いていないが言い訳をした、そんな一日の始まりだった。
右腕に血液を送ってやりたい気持ちとこのままでいさせてやりたい気持ちとで戦っていると、その黄色いものがピクリと動き反射的に寝たふりをする。
起き上がった気配を感じたが、寝ぼけているのかそのまま動かずボーッとしているようだ。見られてるかどうかは分からないが視線が痛い。
暫くすると右腕を擦られるような感覚が何度か行き来し、毛布を掛け直されたかと思うと静かな扉の開閉音。そしてゆっくりとした足音が遠ざかって行った。
「………かわいいかよっ」
自覚できるほどの紅潮と爆発しそうな感情を押さえ込んでいる最中シャワーの音が聞こえ始める。感覚が戻ると同時に半端なく痺れ始めた右腕を抱え込むと思いっきり背中を丸めた。
「持っていかれたっ」
足でも手でもないけれど…
なんかもう、色々持っていかれる。
『ってかあいつ、着替え持って出なかった…よな』
シャワーを済ませた後、高確率で着替えをとりに戻って来る筈だ。それは今暫く寝たふりが続くことを意味し、来るべきその時に備え冷静さを取り戻すために大きくため息をついた。
「あっ、おはよー、睦月!」
「……はよ」
案の定着替えをとりに来た安積を寝たふりでなんとかやり過ごし、平常心を取り戻し部屋を出たのはそれから20分後くらいの事だった。
「えーと、朝飯どーする?じゃなくて、先風呂行って来る?昨日、入れてないよな?」
「あー…まぁ、そーだけど。んー………」
髪も体も気持ち悪いし汗を流してさっぱりしたい。不潔なままで一緒にも居たくないし普通に入りたい。
入りたいのだけど……
「気持ち悪いだろ?着替えとか出しとくから、行ってこいよ」
「………そうだな」
恒例のお泊まり練習で着替えが置いてあるのがある意味災いした。今すぐに帰れば良いだけの話ではあるのだが、なんだかんだ3人で居ることが多く2人だけで居られるのはわりと貴重だ。
そう思うと直ぐに帰るのは勿体ない気がして、苦渋の末風呂を借りることにした。
「あっ、さっきまで使ってたから暖まってるよ!」
「……あぁ」
ただ単に、寒くないから快適だよ!くらいの意味で言ったのだとは思うが、今は妙に生々しく聞こえる。邪な考えをなんとか追いやり“飯てきとーに作っとくよー”と言う声を背中に受けつつ風呂場へと向かった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説


別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

早く惚れてよ、怖がりナツ
ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。
このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。
そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。
一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて…
那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。
ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩
《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる