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- 22章 -
- 哀 -
しおりを挟む「違う、これは違う。安積は関係ない。健康体なだけだ……」
某旅人のように夜明と共に起き…とはいかず大分日が昇ってから目が覚めると、右腕の感覚がない事に気が付いた。何事かと見た先には形の良い黄色いものが乗っかっている。
そして感じた自身の異変に、誰も聞いていないが言い訳をした、そんな一日の始まりだった。
右腕に血液を送ってやりたい気持ちとこのままでいさせてやりたい気持ちとで戦っていると、その黄色いものがピクリと動き反射的に寝たふりをする。
起き上がった気配を感じたが、寝ぼけているのかそのまま動かずボーッとしているようだ。見られてるかどうかは分からないが視線が痛い。
暫くすると右腕を擦られるような感覚が何度か行き来し、毛布を掛け直されたかと思うと静かな扉の開閉音。そしてゆっくりとした足音が遠ざかって行った。
「………かわいいかよっ」
自覚できるほどの紅潮と爆発しそうな感情を押さえ込んでいる最中シャワーの音が聞こえ始める。感覚が戻ると同時に半端なく痺れ始めた右腕を抱え込むと思いっきり背中を丸めた。
「持っていかれたっ」
足でも手でもないけれど…
なんかもう、色々持っていかれる。
『ってかあいつ、着替え持って出なかった…よな』
シャワーを済ませた後、高確率で着替えをとりに戻って来る筈だ。それは今暫く寝たふりが続くことを意味し、来るべきその時に備え冷静さを取り戻すために大きくため息をついた。
「あっ、おはよー、睦月!」
「……はよ」
案の定着替えをとりに来た安積を寝たふりでなんとかやり過ごし、平常心を取り戻し部屋を出たのはそれから20分後くらいの事だった。
「えーと、朝飯どーする?じゃなくて、先風呂行って来る?昨日、入れてないよな?」
「あー…まぁ、そーだけど。んー………」
髪も体も気持ち悪いし汗を流してさっぱりしたい。不潔なままで一緒にも居たくないし普通に入りたい。
入りたいのだけど……
「気持ち悪いだろ?着替えとか出しとくから、行ってこいよ」
「………そうだな」
恒例のお泊まり練習で着替えが置いてあるのがある意味災いした。今すぐに帰れば良いだけの話ではあるのだが、なんだかんだ3人で居ることが多く2人だけで居られるのはわりと貴重だ。
そう思うと直ぐに帰るのは勿体ない気がして、苦渋の末風呂を借りることにした。
「あっ、さっきまで使ってたから暖まってるよ!」
「……あぁ」
ただ単に、寒くないから快適だよ!くらいの意味で言ったのだとは思うが、今は妙に生々しく聞こえる。邪な考えをなんとか追いやり“飯てきとーに作っとくよー”と言う声を背中に受けつつ風呂場へと向かった。
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