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- 22章 -
- 哀 -
しおりを挟むもはや癖の用に他人を優先し自分を後回しにする安積には、多少イラつかせて “ 優先 ” の2文字を消してやるくらいが丁度良い。
ベッドが沈んで持ち上げた毛布が自分の手から浮くのを感じると、背を向け横を向きスペースを開けた。
背中越しに安積がベッドに入り込むのを感じるが、やはり少し緊張しているのか2人の間には隙間が開けられ涼しい空気が流れ込む。
それでも、ガンとして避けられるという事はなかったことに密かに胸を撫で下ろした。
本来なら優先された事に大切にされていると喜びを感じる所かもしれないし、そういう気持ちがないわけではないのだけれど、大切にしたいのは自分だって同じだ。
どちらかだけが優先される必要はない。
2人で優先されれば良いだけの話だ。
2人で大事にしあっていければ良い。
そんなことを考えながら、今度こそ眠りにつこうと目を閉じた。
早く寝たいと言った言葉は裏のない本心だったようでピタリと動きを止めた市ノ瀬裏腹、安積の動機が落ち着くことはなかった。
挑発されるような物言いに思わず反発してベッドに入り込んでしまったが、先程あんなことがあったばかりである。緊張は否めないし、何かあったとしても自業自得になってしまうところだろう。
しかしそんな緊張を他所に背を向けた市ノ瀬は完全に沈黙しており暴走する気配はない。確実に寝る体制に入ったようだ。
『…それも、そう、だよな』
あんな普通では考えられない事が頻繁に起こる分けがない。むしろ班乃の現状が普通じゃなかったからこそ、先程の出来事は班乃自身ですら思いもよらない事だったのではないだろうか。
もう少し自分が冷静になれていればあんな事が起こる事も、こんな気まずい状況になる事もなかったかも知れない。
罪悪感が胸を過るけれど、それでも全てを許してなんでもなかったように振る舞うのは難しい気がした。
それと同時に親切心……おそらく親切心でベッドで寝ろと言ってくれた市ノ瀬に対し変に疑って構えて警戒してしまった事に申し訳なさを感じる。
それに、発作を起こして迷惑をかけた事に対して、お礼も謝罪もまだ言ってない。
「…なぁ、睦月?」
「んー…?」
流石に3度目はキレて無視されるかもと思いながら遠慮がちに声をかけると、予想外に普通な返答が帰ってきてほっとする。
「あのさ…」
「んー……」
「迷惑かけてごめん」
「………なにが?」
「だから、その…喘息の、あれでさ」
「………あぁ、それ。良いよ、別に」
「……………」
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