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慰弦

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- 22章 -

- 哀 -

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『バレたよな、喘息』

迷惑かけてしまったし、また迷惑をかける人が増えてしまった。

班乃に知れてしまった時の事を思い出す。

なんで黙っていたのかと
心配することは迷惑なのかと
協力は必要のないことなのかと
余計な事をして申し訳ないと
頼られないのも寂しいことなのだと

怒らせて、悲しい思いをさせてしまった。

それでもやはり気を遣わせてしまうのが嫌で、気兼ねなく皆と接していきたくて、班乃以外には誰にも言わないで来たけれど……

やはり市ノ瀬も怒らせてしまうだろうか。
1人で対処できると高を括り過ぎていたかもしれない。結局市ノ瀬の手を借りてしまったのだから。

なんだか上手く行かないことばかりだ。

なんでこんなことになってしまったのだろう。
自分のなにがいけなかったのだろう。
どこで間違えてしまったんだろう。

これからどんな顔で、どんな風に接していけば良いんだろう。


「…学校、いきたくないな」


誰に言うでもなく呟いて深いため息をつく。
考えるのが億劫だ。
もう一度寝てしまおう。
そうすれば嫌なことを考えないですむ。

このまま寝てしまおうとも思ったが、エアコン温度が低めで設定されたままになっている為か少し寒い。このままじゃ市ノ瀬が風邪を引いてしまうかも。

せめて毛布だけでもと立ち上がろうとした時、つんっ、と引っ張られるような感覚が腕に伝った。

起こしてしまったかと振り返ると、目は瞑られたままで起こした様子はなかったが…

下ろした視線の先には、自分の手に覆い被さるようにして、市ノ瀬の手が繋がれていた。

無言のままもう一度ソファーに座り直す。


『……暖かいなぁ』


今まで気が付かなかったのが不思議なくらい、そこにだけ暖かさが広がっている。

寝ている時の無意識の行動だったのかもしれないけれど、今はその繋がれた手の優しさが心に染みた。

そっと握り返し目を閉じ……ようとするが、風邪を引きそうな程に寒いのは変わらない。

名残惜しさを感じつつその手を外そうとしたとき、ピクリと動いた手と同時に市ノ瀬がゆっくりと目を開いた。今度は起こしてしまったようだ。


「ごめん、起こした」

「いや……別に」

「………」

「…………」

「……えっ、なに?」

「別に」
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