509 / 1,142
- 22章 -
- 哀 -
しおりを挟む色々と聞きたいところだが、項垂れ疲れきった様子にそれは憚られた。とりあえず薄着のまま冷える玄関で座り込んでいるのが良くないのは確かであるし、落ち着いたのならとりあえずはリビングに移動した方が良いだろう。
動けるか?とかけた声に小さく頷いたのを確認しその手を取り立ち上がらせると、その手から伝わるずっしりとした重みにあまり足に力が入っていないのが垣間見えた。
うがい、という短い言葉に洗面所へ寄ってから、ふらつく安積を支えるようにしてソファーへと座らせると、今にも完全に瞑ってしまいそうな程目が伏せられている。
少し迷った末、同じように隣に腰かけた。拒否されなかった事に安堵するが、一切こちらを見ようともしない様子に対応に悩む。
こういうのは苦手だ。
普段ならズバズバと言葉を投げ掛けるところだが、安積には出来ない。
こんなにも、誰かの気持ちに配慮したいと思ったことがない。
こんなにも、大切にしたいと、心底思ってしまったことは、今までに一度たりともなかったからー
下手なことを言って追い討ちをかけるようなことはしたくない。どんな言葉でも良い、安積が話し出せるようになるまで待とうと何をするでもなくお互い無言の時間が過ぎていく中、不意に肩に重みが乗る。
ゆっくりと視線を移すと、そこには安積の頭が乗っかっていた。
「…安積?」
遠慮気味に声をかけるが反応がない。
もう1度名前を呼んでみるがやはり反応はなく、どうやら眠り込んでしまったようだ。
『…まぁ、無理もないか』
今日1日、色々な事があった。
学校から帰ったあとも、恐らく………
その顔は寝ていてさえいてもどこか辛そうに見える。その顔の下、中途半端に開いたままのシャツが、そこからのぞく複数の赤い跡が目に入り静かに手を伸ばした。
再度沸き上がる怒りを抑え、起こさないように、起こさないように、とそろそろとボタンを閉めていく。全て閉め終わっても安積が目を開けることはなかった。
このまま寝かせといてやろう。
力なく置かれた手に、そっと自身の手を被せる。
自宅に連絡を入れiPhonerの画面を消すが、不意に思い立ってβ刺激薬と検索欄に打ち込んだ。
そこに出てきた検索結果に、驚きよりも納得の文字が浮かび上がる。
体育を休む理由も、少し走っただけで心配する班乃の反応も、いつ来てもチリ1つ見つかりそうもない部屋の意味も。
『なる程……どうせ迷惑かけたくねぇとか思ってたんだろうな』
溜飲が下がるとはこのことか。
今度こそiPhonerの画面を消し、手の届く範囲にあったリモコンで電気を消すと同じように目を閉じた。
市ノ瀬にとっても、今日は緊張続きで疲労は大きい1日だった。
目を閉じるとそれ以上考える間も無く、眠りの中へと意識を手放した。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。


塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる