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慰弦

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- 22章 -

- 哀 -

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握られた手から
合わされた額から

与えられる温もりが、今はただただ怖い。
知れば知る程、失った時の喪失感が増してしまう。

分かってた筈だ。
身をもって知っていた筈だ。
だからこそ
大切な人は作らないと決めた筈だったのに...

大切な人が居なくなってしまう恐怖が心を埋め尽くしている中、次は誰だろうかという思いに駆られる。

また親兄妹かもしれない。

今、目の前に居る親友かもしれない。

もし彼が居なくなってしまったら……

考えるだけで言葉に出来ない恐怖が心の中で暴れまわり、耳を塞ぐことも目を背けることも出来ず自分の手を握る安積の手を力強く握り返した。


「あき?」


手に入れたいと願ってしまって
手に入ることはできないと諦めた。
それでも、既に失くすことに恐怖するには十分過ぎるものを貰ってしまっている。

人が居なくなる時なんて突然なのだ。

想いを告げることを後まわしにし、結果伝える事が出来ないまま亡くしてしまった幼馴染みへの後悔が脳裏を過った。

もし彼が、明日居なくなってしまったら。
もしかしたら、この瞬間にだってあり得る。

失うかもしれない恐怖で温もりを拒絶し
それなのに、温もりを失うことにも恐怖し
失くしてから後悔する事にも恐怖し

もう滅茶苦茶だ。

理解を越えた相反する思いが心をかき乱す。

『……もう疲れた』

どうせ失ってしまうものなら
もう“どうだって良い”じゃないか。

後戻りできないくらいに沢山の物を貰ってしまっているんだから、今更なにを怖がることがある?

なにも手にすることが出来ず後悔するくらいなら、結果がどうなろうが関係ない。

今心の中にある寂しさや孤独、辛さや悲しさ、恐怖や不安、それらを一時でも忘れられるものがあるのなら、それに全てを委ねたって良いじゃないか。

あの時とは違って
そうしても良いよと
差し伸べられた手が
目の前にあるのだから。

どうせ、いつかは失くなってしまうのだから。
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