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- 22章 -
- 哀 -
しおりを挟む皆が本気だったからこそ、罪悪感を感じているのだろうし、自分も頑張って居たから残念な気持ちもあるのだろう。あまりこの話を続けるのは余計落ち込むだけな気がして、違う話を……
と思ったけれど、残念なことに気持ちが浮上するような話は出来なさそうなのが現実だ。
しばしの沈黙が続いた後、耳を澄まさなければ聞き逃してしまうような声で班乃が口を開いた。
「もし、迷惑でなければ、いま、会いに行っても良いですか?」
「そんなの迷惑なわけないじゃん!良いよ!今どこに居るの?迎えにいくよ!!」
どうして迷惑だなんて思うのか。
そんなわけないのに。
なにがどうなっているのかは分からないけど、なにがどうなって居ても、どんなことがあったのだとしても、力になりたい。会いに来たいといわれたなら尚更。
すぐ動けるようにしていたため、会いに行っても良いかの言葉と同時に立ち上がり、側に置いてあった財布をポケットに突っ込っこむと玄関へと向かった。
玄関に置いてある鍵をひっつかみ、靴を中途半端に履いたままドアを開けた瞬間、目の前にいる人物に足が止まった。
「……すいません。無意識に、足が向いてしまって。もし、駄目なら、すぐに帰ろうと思って」
そこに居たのは今まさに電話をしていた班乃だった。携帯と目の前から二重に声が聞こえてくる。ドアを開けた瞬間、一瞬合った目には表情がなくすぐに下を向いてしまった。
感情が疲れ果て、考えることを放棄してしまっているような表情だ。
それでも、ここに来てくれた。
そんな中でも、班乃の中に自分が居てくれることが、不謹慎だけれど嬉しく思ってしまう。
嬉しさとあまりにも弱々しいその姿に庇護欲が沸き上がる。少しでも安心して欲しくて、少しでも息の抜ける場所があるというのを知って欲しくて、下を向きその場に突っ立ったままの班乃を優しく抱き締めた。
「謝らないで。なにも気にすることもないよ」
もう間もなく11月に入ろうとしている所だ。夕方になると気温も大分下がる。触れた体は大分冷えきっていた。
「すぐにチャイム押してくれて良かったのに。とりあえず、中入ろ? すぐ暖かいの準備するから」
安心させるように微笑んで、なおも動こうとしない班乃の手をゆっくりと引きリビングへと招き入れた。
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