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- 21章 -
- 冒険 -
しおりを挟む音もさせず静かに唇を離すと、教室内にも静寂が広がる。
心臓の音さえも聞こえてきそうな程だ。
言葉もなく、見つめ合うだけの時間がすぎる。
どれだけ経っただろうか?
数分だったかもしれないし、数十秒だったかもしれない。
突然盛大な音を立てて植野が立ち上がり、その反動で椅子が転がるがそんなこと気にする様子は微塵もない。
その顔は紅潮していて、怒っているようにも見える。
てっきり喜んでもらえるものだと思ったのだけど、断りを入れるべきだったか??
鈴橋が謝罪を口にしようとした時……
「ずるいっ!!」
「は??」
予想斜め上からの言葉に、鈴橋の口からすっとんきょうな声がこぼれ落ちる。
「初めては俺から先にしたかったのにっ!!」
『はじめてって……そういう問題?』
一先ず行為に関して怒っている訳ではないようで安心ではあるが、なぜだか予想とは違う方向で1人憤慨している様子に戸惑いしかない。
それにー
「いや、別に初めてじゃないだろ。するのは。それにあの時はお前からー」
「そうじゃないっ!付き合って初めてって事だよっ!!ってかお休みのデコちゅーと今のを一緒にしないでっ!!」
実は以前、妹のおでこにお休みのキスをする鈴橋を目の当たりにし、我慢しきれずに自分もしても良いかとお願いしたことがあった。
突然なにを言い出すんだと呆れたような目を向けられはしたが、さして抵抗もなく“どうぞ”と言われたそのあまりにも意識されてない態度に落ち込んだのは悲しい思い出だ。
「はぁ……じゃぁ良いよ。今のはノーカンで。はい、どうぞ」
あの時と同じくどこか呆れを含ませた声でそう言った鈴橋は、あの時と同じく、いや、それ以上に抵抗なく迎え入れるかのように両手を前に出した。
悲しくはある。
悲しくはあるのだけどー…
「なに言ってんの!?がっくんからの初めてノーカンに出きるわけないじゃん勿体ないっ!!ってか、無駄に男前っ!?」
「男前って……ならお前はどうしたいんだよ」
「そっ、それは………」
考える人よろしく、口元に手を置きしばし無言の時間がすぎる。
『なんか、疲れたから帰りたい……』
勿論気持ちが通じあって嬉しいのは間違いないのだけど、文化祭や気持ちを伝える為にと色々と考え準備し、そしてようやく伝えることも出来きた。慣れない事を沢山してきたせいで、無事達成された今その疲れがどっと押し寄せてくる。
が、それを今言う程空気が読めないわけではない。心の中で思うだけに止めて次の言葉を待った。
「じゃぁ、もう1回していい??」
どうしてその回答にたどり着くのかは謎なのだけど、拒む理由はどこにもない。言葉の代わりに笑って応えた鈴橋にどちらからともなくおでこを合わせ、ゆっくりとなくなるその距離を、密かな幸福感と共に受け入れたのだった。
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