Pop Step

慰弦

文字の大きさ
上 下
493 / 1,151
- 21章 -

- 冒険 -

しおりを挟む


「……………え?」

「あっ……ちっ、違う!今のは違うっ!!」


意図せず自然と出てしまった言葉に慌てて両手を振り否定をすると卓上に両手をつけて俯いた。


なんてことだ!

なんてことだっ!!


伝えたいことはたくさんあって、その為にたくさんシュミレーションして、実際に会話をして成り立ったものが正解だとは思ったけれど、これはあんまりだ。

全部すっ飛ばして結論を言ってしまったようなものじゃないか。

チラリと盗み見た植野は、訳が分からないというような表情をしていた。

当たり前だ。

けれど

でも

話す順番はシュミレーションとは大幅に違ったものの
好きだと言ったことは……


「………違うの?」

「…いや、違くない。違くは、ないな」


言ってしまったものはしょうがない。

机に置いた両手を祈るようにぎゅっと結び顔を上げると真っ直ぐと植野をその目に捉えた。


「ずっと、待たせて悪かった。しんどい思い、たくさんさせたと思う。気持ちに答えられないって言ったのに、変わらずに接してくれて感謝してる。そのおかげでしっかりと自分の気持ちと向き合うことが出来た。本当にありがとう」


「…………」


口を引き結んだまま花束を抱え次の言葉を待つその顔は不安げに揺れていた。自分の一挙一動で植野の表情はコロコロと変わる。そして、こんな顔をさせられるのは、たぶん……自分だけなのではないだろうか。


「ずっと考えてた。お前が作ってくれた時間、ずっとずっと。ちゃんと考えてたよ。お前があまりにも優しくしてくれるからこのままでも良いかもって、少し思ったりもしたけど…お前に辛いこと悲しいこと全部押し付けて与えてもらうだけの心地いい今に甘え続けるのは駄目なんだって。だから、変わらなきゃって思った。今を壊してしまったとしても、ちゃんと伝えなきゃって」


不安げにしながらも視線を反らすことなくしっかりと自分を見つめる植野その表情がどう変わってしまうのかは分からない。

次の言葉で、今の関係は終わってしまう。
望まない関係と成り変わってしまうかもしれない。
少しばかり手放したくない衝動に駆られるが、それでも、もう迷うことはなかった。

反らされる事のない視線に自らもしっかりと返し、背筋を伸ばして大きく息を吸い込み、そしてーー




「もし、お前があの時と同じように俺を想ってくれてるのなら、俺はそれに応えたい。

長い間、待たせて本当にごめん。

……俺も、お前が好きだ。

俺と…付き合ってほしい」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

ヤンデレでも好きだよ!

はな
BL
春山玲にはヤンデレの恋人がいる。だが、その恋人のヤンデレは自分には発動しないようで…? 他の女の子にヤンデレを発揮する恋人に玲は限界を感じていた。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

どうやら手懐けてしまったようだ...さて、どうしよう。

彩ノ華
BL
ある日BLゲームの中に転生した俺は義弟と主人公(ヒロイン)をくっつけようと決意する。 だが、義弟からも主人公からも…ましてや攻略対象者たちからも気に入れられる始末…。 どうやら手懐けてしまったようだ…さて、どうしよう。

ボクに構わないで

睡蓮
BL
病み気味の美少年、水無月真白は伯父が運営している全寮制の男子校に転入した。 あまり目立ちたくないという気持ちとは裏腹に、どんどん問題に巻き込まれてしまう。 でも、楽しかった。今までにないほどに… あいつが来るまでは… -------------------------------------------------------------------------------------- 1個目と同じく非王道学園ものです。 初心者なので結構おかしくなってしまうと思いますが…暖かく見守ってくれると嬉しいです。

処理中です...