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- 21章 -
- 冒険 -
しおりを挟む不安と緊張の中、携帯の通知音に耳を集中させていた。今から行くよ。返信がきたらいよいよだ。
準備だってしてきた、話す内容だって考えてある。
だけど今だに纏まりきらず、頭の中ではずっと話す内容を繰り返していた。けれど、いくらシュミレーションしたって相手がどう返してくるか分からない以上、正解はないのだろう。
実際に会話をして成り立ったものしか正解はでないのだ。
座り込んで膝を抱えて頭を埋めて、そんなふうにずっと考え込んでいても気分が滅入るだけだ。これ以上気持ちが落ち込まないようにと勢いをつけ立ち上がると窓辺にある椅子へと移動し腰を下ろす。
落ちかけた太陽の、まだ沈みたくないとでもいうような、最後の悪あがきともとれる夕日が教室全てを照らし出している。
殆どの出し物が片付けを終えたらしく、校門とは正反対のこちら側には生徒の姿はない。
静かに息を吸って吐いた。
文化祭が嫌いなわけではないけれど、やはり賑やかなのは苦手なので、ようやく戻りつつある日常に安心感を覚える。
『大丈夫、うまくやれる』
そっと目を閉じ、心を落ち着かせようとしていた丁度その時、勢い良く教室のドアが開いた。
「おまたせっ!がっくん!!」
反射的に声のした方へ振り返ってからパッと携帯を見た。返信はない。返信がきたら、返信がきたら、と考えていたので心の準備は不完全なままだ。
「えっ、あっ…いや、そんなには待ってない。大丈夫」
そうだ、同じ建物にいるのだから、返信するよりも直接来た方が効率が良い場合もあるだろう。申し訳なさそうに謝られれば、逆に自分の考えのいたらなさに申し訳なくなる。
「それで用事って?なんかあった??」
急に呼び出したのは此方なのに、開口一番心配を口にする。どこまでも優しい男だ。
けれど、うまく言葉が出てこず、思わず植野の視線から目をそらす。
そんな自分の態度に怒るでも急かすでもなく、植野は笑みを浮かべたまま自然と窓の外へと視線をそらした。
『あぁ、自分はいつも待たせてばかりだな』
だが今は落ち込んでる時ではない。話に集中しなくては。話の切り口を探すけれどなかなか良い言葉が出てこない。
話し始めてしまえば勢いでなんとかなったりもするのだけど。
誰かと話をする上で1番難しいのは、なんだかんだ最初の一言だったりすると思う。
自信を持って言えるほどには、自分は話をするのが得意ではない。そんな自分がいつもとは違うことをしようとしてもうまく行くはずがないのだ。
ならいつも通りの事から自然に話を続けていく方が、いくぶんかうまく行く……気がする。
側に置いてあったバケツから花束を取り出し、巻き付けてあるペーパーから水が垂れないように手早くビニールを被せつけて差し出した。
「これ、渡そうと思って」
「えっ、もしかしてこれ渡すためにわざわざ待っててくれたの!? うれしー!ありがとー!!」
鈴橋の手から花束を受け取り、電気のついてない教室で良く見ようとするかのように高く持ち上げ、窓から差し込む夕日に花束をかざした。
「綺麗な花ー!でも初めて見る花だなぁー!なんて名前?」
「チューベローズ」
「えっ、これバラなの!?」
「いや、薔薇じゃない」
「違うの!?おもしろww」
満面の笑みで花を眺める姿に、以前に交わした会話を思い出した。
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