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- 21章 -
- 冒険 -
しおりを挟む自分を呼び出したその人物は窓辺に1人座っている。
開け放った窓から入る風で髪が緩やかに揺れ、ぼんやりと外を眺める目を気持ち良さそうに閉じた。
差し込む夕日に輪郭が仄かに光ってとても綺麗だ。
ずっと眺めていたくなる衝動に駆られるけれど、いつまでもこうしているわけにはいかない。
高鳴る鼓動を押さえ、笑顔を作ると室内へと入った。
「おまたせっ!がっくん!!」
掛け声と同時にドアを開けると、鈴橋が弾かれたように振り返った。
「えっ、あっ…いや、そんなには待ってない。大丈夫」
携帯をチラ見して優しい嘘をつく。栽培部の片付けがとっくに終わってるのは知ってる。それなのにわざわざ自分のために待っていてくれたのだから、嬉しくないはずがない。
「驚かしてごめんっ!返信するの忘れてた」
「…あぁ、そう。良いよ、別に。大丈夫」
返信もせずに急に来たうえ嬉しさを押さえきれず勢いよく扉を開けてしまったのだから驚かせるのは当たり前だ。短く吐きだした息に少し申し訳なさを感じるけれど、鈴橋からのトークを見た瞬間に返信するよりも先に体が動いてしまったのだからしょうがない。
本当は忘れたのではなく、早く会いたくて仕方がなかったのだけれど。
「それで用事って?なんかあったの??」
あまり騒がしくしないようにと舞い上がる気持ちを押さえ込み、机を挟んで前にある椅子にいそいそと腰かけると鈴橋の目が泳いだ。
『なんだろ??』
なにを話そうとしてるのかは分からないが、こういう時の鈴橋が懸命に言葉を探しているのだというのは分かっている。
一体なにに悩んでいるのか、なにを話そうとしているのか不安がないわけではないけれど、鈴橋の思考が今自分にだけ向けられていると思うと笑みが溢れてしまう。単純だとは思うけれど、好きな人が自分のことを懸命に考えてくれてるとなれば誰だってそうなるんじゃないだろうか。
なおも難しい顔をしている鈴橋を急かさないよう、変にプレッシャーを与えぬよう、窓の外に視線を逃がしゆっくりと待つ体制をとった。
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