Pop Step

慰弦

文字の大きさ
上 下
485 / 1,142
- 21章 -

- 冒険 -

しおりを挟む


「あれっ……」


部活の出し物の場所へと向かうと既にシートやパラソル、椅子などは畳まれていて、後はそれらを部室へ戻し纏められたゴミを捨てに行くだけで終わりという状態だった。


「あっ!学!お疲れ様!!」

「お疲れ様です、部長。もかして全部部長が片付けて下さったんですか?」

「うん!だってさ、見てよこれっ!」


嬉しそうに笑った冴霧さぎりは額にうっすらと浮かぶ汗を拭いながら、先程まで自分達が使っていたスペースに手を向けた。


「完売だよっ!文化祭が終わる前に全部っ!」

「完売っ!?本当ですか!?」

「本当本当っ!!凄いよねっ!まさか完売するとは思わなかったからすっげぇ嬉しい!」

「俺も、全部は無理だろうなって思ってました…凄いですね!!嬉しいですっ!」


同じように喜びを示し完売したブースから冴霧へと視線を移すと、お腹の前で両手を組みなにもなくなったブースを眺める笑顔になんとなく陰りが見えた気がした。


「部長?」

「あぁ、いや。良かったなぁ、って思って」


声のトーンを落とししみじみと言う声には笑顔と同じく陰りが見え、どこか悲しそうだった。


「栽培部ってさ、人数ギリギリなのに学以外殆ど幽霊部員じゃん?3年に上がった時にさ、ギリ規定人数が揃ったのにはほっとしたけど、皆やる気なかったから正直不安だったんだよ」

「…世話する範囲も広いですしね」

「そうそう。誰か1人でも辞めたら廃部だし、世話しきれなくても廃部だしね…。でもさ、学が頑張ってくれたからなんとかここまで続けられたし、文化祭もこうやって大成功出来た。本当に感謝してる。最後に良い思い出が出来てすっごく嬉しい。ありがとーね」

「……そんな、俺は別に……俺の方こそ、色々教えてもらって感謝してますし、楽しそうにしてる部長と一緒に活動するの、凄く楽しかったです」

「そっか…。そう言ってもらえただけで、頑張った甲斐があったよ。本当はもっとちゃんとした状態で部活引き継いであげたかったんだけど…ごめんね」

「いえっ、そんなっ!俺がここまでやってこれたのだって部長のおかげですからっ。少し不安はありますが…部長が残してくれた栽培部、存続させられるように頑張りますっ。だから、卒業してもまた遊びに来てくださいっ」

「うん、ありがとっ…絶対来るよっ!」


秋の終わりの涼しい風が吹きぬける中、もう1度何もなくなったブースを2人で眺めた。事実2人で準備を進めていた事もあり中々に大変だったからこそ達成感もひとしおあるけれど、だからこそ、終わってしまった寂しさも増してしまっている気がする。

周りの賑やかさが合間って、色を増した寂しさが心の中に落っこちる。もしかしたら気がつかないだけで、辺りにあふれる笑顔の下にも哀しみや寂しさが隠れてるのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

チャラ男会計目指しました

岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように………… ――――――それを目指して1年3ヶ月 英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた 意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。 ※この小説はBL小説です。 苦手な方は見ないようにお願いします。 ※コメントでの誹謗中傷はお控えください。 初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。 他サイトにも掲載しています。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...