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- 20章 -
- 開演 -
しおりを挟む再び照明が付けられ、幕が上がっていく。
「ロミオ、市ノ瀬睦月!ジュリエット、安積聖!」
名前を呼ばれ1歩前へ出ると2人で目配せをし手を取り合う。安積は空いている手でスカートを持ち上げ市ノ瀬は胸に手を当てると揃ってお辞儀をし1歩下がった。
「マキューシオ、矢吹智!」
その後も次々とキャストの名前が呼ばれては前に進み出て、役に会わせた所作で一礼をしていく。
最後にナレーション係がマイクを片手に舞台上に登場し、全員の紹介とお礼が済んだところで皆で手を取り合い深い深いお辞儀をした。
それにあわせて幕が降り、漸く波乱の演劇が幕を閉じたのであった。
幕が降りきると同時に舞台上には安堵と脱力感が一気に広がり、殆どの者が下げた頭を上げることなくその場に座り込む。
突然の主役の不在、突然の配役変更、本番中でさえも休憩なく舞台袖で動きあわせをしつつなんとかミスなく乗りきった。
自分の出番が終わったとしても、無事何事もなく終われるかと全員が固唾を飲んで見守った演劇が、漸く終わったのだ。
各々が力ない声で称賛を口する中、市ノ瀬は隣に座り込んだ突然の配役変更を受け入れてくれた矢吹へと拳を差し出した。
「サンキュー、マキューシオ」
「お役に立てて良かったよ、ロミオ」
わざとなのか役が抜けきれて居ないのか分からない市ノ瀬の言葉にあわせるようにして答えた矢吹は差し出された拳に自身の拳を打ち付けた。
そんなムードの中、安積は項垂れる事も座り込むこともなくいち早く舞台袖へと向かう。長いスカートに蹴躓きそうになりながら数段の階段を飛び降りると、自分の鞄へ向かい携帯をつかみ取った。
LINEの通知は来ていたが、はたして誰からの連絡なのか。ロックを解除する時間がもどかしい。
焦りからか何度か解除を失敗した後、漸く開いたLINEのトークは班乃からのものではなかった。
短く息を吐く。
まだ、手術中なのかもしれない。
もしかしたら手術は無事終わっていて
家族で今後のことなどの話合いをしているのかも。
もしかしたら、そうでもなくて……
嫌な考えがよぎりそうになり、振り払うように頭をふった。
そんな中脱力感から立ち直った部員達がパラパラと舞台袖へと戻ってきては、安積へともの聞きたげな視線を向け通りすぎていく。
『そりゃ、そうだよな…』
どう切り出そうかどうしようかと悩んでいると、側に居た部員がオズオズと言った様子で安積へ話しかけてきた。
「あの、さ」
「…うん」
「さっきは、ごめん」
「………へ?」
てっきり事の成り行きや何も答えなかったことを問い詰められるかと思っていたが、開口一番に謝罪が来たものだから、思わず間抜けな声が出てしまった。
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