Pop Step

慰弦

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- 20章 -

- 開演 -

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『落ち着け、大丈夫…出来るっ…』

代役変更による緊張ではなくまた別の緊張が込み上げる。練習中、班乃と安積がある意味苦戦していたクライマックスがもう目前だ。

安積は羞恥心と、班乃は挙動不審になる安積にと苦戦の対象は違ったようだけれど。

そして自分は、その練習姿にもやつく気持ちと。

ある意味代役変更というアクシデントでもやつく気持ちが晴れると言えばそうなのだが…

なのだが……

『…なんも考えんな。集中集中っ!』

パッと照明がつけられると邪な思考を追い出すよう1度大きく深呼吸し、ゆっくりと光の中に進み出る。


墓へ忍び込んだロミオは墓台に横たわるジュリエットをみつけると、その頬へとそっと手を滑らした。


「あぁ、ジュリエット……死しても変わらないこの美しさ。この頬、唇でさえも死の影はなく輝いている!死神さえも貴女の美しさに手が出せずに居るというのか!」


仮の死だと知らず、その手をとり自身の頬へとあてがったロミオが悲しげな笑みを浮かべる。便りを出すと約束し再開を誓い合った妻。けれどこんな再会は望んではいなかった。どんなに側にいようとも、今ではその吐息すらも感じることは出来ない。


「ならば、この宮殿を出ることなく、私も貴女を守り続けましょう。私の体が、共に朽ち果てるまで。この目が貴女を見つめるのも、この手が貴女に触れるのも、これが最後……」


懐から1つの小瓶を取り出すと、前へ進み出て観客へと見せつけるように高々に持ち上げた。


「さぁ!愛の杯を!!」


躊躇することなく一気に飲み干し苦しそうに口元を押さえたロミオは、ジュリエットの横たわる墓台へと振り向き手を付いた。


「そして…最後の、息を……このキスで閉じ、時のない国を、共に…生きましょう」


ジュリエットに被せられていた布をそっと手に取ると、観客達に背を向け2人を包み込み隠すようにしてキスする演出を醸し出しす。


顔が近づいた瞬間ピクリと表情が動き、ごくりと息を飲む音が聞こえてきた。どうやら練習中

“見るから緊張するんです。本当にするわけじゃないから安心して寝ててください。あと至近距離でそんなにガン見されたら、さすがに僕も気まずいです”

と散々班乃に言われた言葉をしっかりと守っているようで、その目は力一杯ぎゅっと瞑られている。

『これだけで緊張とか…あー、くそっ…可愛いかよっ』

最早その気持ちを誤魔化す声は聞こえてこない。

『ホントにすんぞこのやろうっ。ってか、ふりでこんなんって…本当にしたらどうなんだろ…な』

気になる。いや、それ以前にそれがなくても“したい”、と沸き上がる衝動をなんとか押さえ込み、無事最後の芝居をやりとげたのだった。
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