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- 20章 -
- 開演 -.
しおりを挟む1度全ての照明が落とされ、ヒバリの鳴く声と共に舞台中央へとスポットライトが当てられる。その暖かな光に包まれながら、ロミオとジュリエットは向かい合いしっかりと手を繋ぎあっていた。
微睡みの中ゆっくりと顔を上げると、悲しげに揺れるロミオの瞳がジュリエットをとらえていた。その視線に穏やかな笑みを返したジュリエットだが、その笑みにも悲しみがひた隠しにされているようにも見える。
「安心してくださいな。この声は、ヒバリではなくナイチンゲール。まだ夜明けではありません。心配ないわ。安心してください」
「いいえ、ジュリエット。これはヒバリの声だ…夜の灯火は燃え尽き、朝の使いが私たちの別れを告げに来たのです。私を守る月夜の衣は、光輝く太陽の前に消え失せてしまいました」
「いいえ…いいえ。あれは太陽の光なんかじゃないわ。そうじゃない。まだ大丈夫。まだ大丈夫よ。まだ行かないで…私の側に居て……」
繋いだ手はそのままにロミオの胸元へと隠すように顔を埋めた。見つかれば死罪。けれど悲しみを湛えたまま笑い側に居てほしいと懇願する愛しの妻の姿に、それすらもどうでも良くなってしまう。
神父の言う通りマンチュアへと逃げたとして再び妻と会える確証はないに等しい。それならば、行かないで欲しいと言う妻の願いの通り、今確かに抱き合える時間を共に過ごしたい。
これが最後になるとしても。
「そうだ、死罪がなんだというのだ…貴女と居られるのならばそれになんの心残りがあろう!そう、目を焼くあの明かりは朝日ではないし、空高く響き渡るあの声もヒバリではない!貴女が求めるのなら、どこへも行かずここで死のう!」
ジュリエットの要求に応え力強く抱き締めたロミオだったが、そんなロミオに笑みが向けられることはなかった。苦しげに顔を歪ませたジュリエットはギュッと目をつぶり、ごめんなさい、ごめんなさいと震える声で繰り返す。
「やっぱり駄目っ!あの声はヒバリの声だわ!あぁ、なんて嫌な声なのっ!!ごめんなさいロミオ!急いで、もう夜明けだわ!!」
包容をほどき勢い良く立ち上がると、ロミオの手を引いて舞台袖へと走りながら会話を続ける。
「どんな手立ても逃さずに、必ず便りをだそう!」
「お待ちしております!あぁ、ひとときが1週間の思い…またお会いできますよね!?」
「勿論だとも!今にこの悲しみも楽しい語り草に!どうか、それまで元気で居てくれっ」
「はい、その時を心待にしております!」
舞台端で立ち止まりもう一度抱き締めあうと、ロミオだけが舞台上から立ち去り、ジュリエットは1人その場に崩れ落ちた。
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