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慰弦

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- 20章 -

-文化祭っ!!-

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そのままなにも言わずただただ睨み付ける市ノ瀬に蹴落とされ、誰も言葉を発する事が出来ない。


「……睦月?」


張り付くような喉をなんとか開き名前を呼ぶと、ゆっくりと立ち上がった市ノ瀬は全員を見下すような角度で顔を上げた。


「さっきから寄って集ってガタガタガタガタうるせぇな。出れねぇもんはしょうがねぇだろうが。来れねぇ奴に文句垂れて何か変わんのかよ?」

「でも」

「あ゛??」

「…………」


更に不満を続けようとする部員を一言で黙らせると、流れる気まずい空気など意にも返さず即座に誰かを探すように全員を見渡した。

安積を取り囲む部員達から少し引いたところで不安げに立って居た目的の人物を見つけると、一直線に向かっていきその手を掴む。

突如捕まれた部員はなぜ市ノ瀬が自分のところに来たのか理解できず周りを見渡すが、理解出来ないのは他の部員も同じようで困惑を張り付けた顔を恐る恐ると市ノ瀬へと向けた。


「えっと…なに??」


困惑したそんな声すらも無視し、市ノ瀬は今までの記憶を辿っていく。


『こいつは乱闘シーンのセリフのない取り巻きでしか役はない。でも……』




「矢吹、マキューシオはお前がやれ」

「……はぁ!?そんなの無理に決まってるだろっ!?台詞だって覚えてー…」

「ないか?」

「…………」

「本当に?」

「それ、は……」


しばしの間真剣な目をした市ノ瀬と見つめ合い、舞台裏全体に張りつめた時間が流れる。

本当は台詞は全部覚えている。

マキューシオで希望を出したが通ることはなく、マキューシオ演じる市ノ瀬の側で取り巻きとして練習を続けていた。

それが悔しくて、悔しくて。

意味のないことだと分かっては居たが台詞を頭に叩き込み、台詞を読み上げる市ノ瀬と共に密かに口ずさんでいた。

そしてそんな姿が、市ノ瀬の目に止まっていたのだ。

そんな彼の姿を鬱陶しいと思った事もあった市ノ瀬だったが、今となってはありがたい。


「分かった……やってみる。でも、そしたら…」


意を決したように呟いた矢吹へ準備していた衣装を即座に手渡すが、勿論これで全ての問題が解決したわけでないのは分かっている。

…不安がないわけではない。

でも、長い時間ずっと一緒に練習して来た。

きっと、出来る。

きっと、出来る。

ちらりと盗み見た安積の顔は困り果てたような、不安そうな色に満ちていた。

なにがあったかなんて分からない。仲間外れにされたようで、自分には入り込めないなにかがあるようで面白くもない。

けれど、いつだって他人の為に動く安積が下した判断が間違っているとも思えない。

見守るように息を飲む部員の視線を一身に集める中、大きく深呼吸し、そして声を張り上げた。



「ロミオは、俺がやる」


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