467 / 1,151
- 20章 -
-文化祭っ!!-
しおりを挟むそのままなにも言わずただただ睨み付ける市ノ瀬に蹴落とされ、誰も言葉を発する事が出来ない。
「……睦月?」
張り付くような喉をなんとか開き名前を呼ぶと、ゆっくりと立ち上がった市ノ瀬は全員を見下すような角度で顔を上げた。
「さっきから寄って集ってガタガタガタガタうるせぇな。出れねぇもんはしょうがねぇだろうが。来れねぇ奴に文句垂れて何か変わんのかよ?」
「でも」
「あ゛??」
「…………」
更に不満を続けようとする部員を一言で黙らせると、流れる気まずい空気など意にも返さず即座に誰かを探すように全員を見渡した。
安積を取り囲む部員達から少し引いたところで不安げに立って居た目的の人物を見つけると、一直線に向かっていきその手を掴む。
突如捕まれた部員はなぜ市ノ瀬が自分のところに来たのか理解できず周りを見渡すが、理解出来ないのは他の部員も同じようで困惑を張り付けた顔を恐る恐ると市ノ瀬へと向けた。
「えっと…なに??」
困惑したそんな声すらも無視し、市ノ瀬は今までの記憶を辿っていく。
『こいつは乱闘シーンのセリフのない取り巻きでしか役はない。でも……』
出来る筈だ。
「矢吹、マキューシオはお前がやれ」
「……はぁ!?そんなの無理に決まってるだろっ!?台詞だって覚えてー…」
「ないか?」
「…………」
「本当に?」
「それ、は……」
しばしの間真剣な目をした市ノ瀬と見つめ合い、舞台裏全体に張りつめた時間が流れる。
本当は台詞は全部覚えている。
マキューシオで希望を出したが通ることはなく、マキューシオ演じる市ノ瀬の側で取り巻きとして練習を続けていた。
それが悔しくて、悔しくて。
意味のないことだと分かっては居たが台詞を頭に叩き込み、台詞を読み上げる市ノ瀬と共に密かに口ずさんでいた。
そしてそんな姿が、市ノ瀬の目に止まっていたのだ。
そんな彼の姿を鬱陶しいと思った事もあった市ノ瀬だったが、今となってはありがたい。
「分かった……やってみる。でも、そしたら…」
意を決したように呟いた矢吹へ準備していた衣装を即座に手渡すが、勿論これで全ての問題が解決したわけでないのは分かっている。
…不安がないわけではない。
でも、長い時間ずっと一緒に練習して来た。
きっと、出来る。
きっと、出来る。
ちらりと盗み見た安積の顔は困り果てたような、不安そうな色に満ちていた。
なにがあったかなんて分からない。仲間外れにされたようで、自分には入り込めないなにかがあるようで面白くもない。
けれど、いつだって他人の為に動く安積が下した判断が間違っているとも思えない。
見守るように息を飲む部員の視線を一身に集める中、大きく深呼吸し、そして声を張り上げた。
「ロミオは、俺がやる」
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説


そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

エデンの住処
社菘
BL
親の再婚で義兄弟になった弟と、ある日二人で過ちを犯した。
それ以来逃げるように実家を出た椿由利は実家や弟との接触を避けて8年が経ち、モデルとして自立した道を進んでいた。
ある雑誌の専属モデルに抜擢された由利は今をときめく若手の売れっ子カメラマン・YURIと出会い、最悪な過去が蘇る。
『彼』と出会ったことで由利の楽園は脅かされ、地獄へと変わると思ったのだが……。
「兄さん、僕のオメガになって」
由利とYURI、義兄と義弟。
重すぎる義弟の愛に振り回される由利の運命の行く末は――
執着系義弟α×不憫系義兄α
義弟の愛は、楽園にも似た俺の住処になるのだろうか?
◎表紙は装丁cafe様より︎︎𓂃⟡.·

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる