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- 20章 -
-文化祭っ!!-
しおりを挟むごめん、一緒には行けない、
でもいつでも連絡して
ずっと待ってるから
きっと大丈夫
きっと、大丈夫だから
そんな言葉達を投げ掛け班乃を顧問の車へと押し込むと、見えなくなるまで見送り急いで体育館まで戻った。
大丈夫だなんて、なにも分からない状態で無責任だったと思う。だけど少しでも安心してほしくて思わず出たそんな言葉に、班乃は力なく薄く笑った。
本当は一緒に行きたかった。今の班乃を1人にしたくなかった。行けないの言葉に揺れたすがるような目に、それでも静かに頷くその姿に、心が傷んだ。
でもそういうわけにはいかない。
体育館に着いたものの直ぐに扉を開けることは出来ずその場に立ち尽くした。
なんとかするとは言ったものの、主役の居ない劇をどうすれば良いのかなにも思い付かない。
けれど、時間は待ってくれないのだ。いつまでもこうしているわけにもいかず、落ち着かない心を奮い立たせ部員の待つスペースに足を踏み入れた。
部員達の視線が一斉に向けられ、そこに班乃が居ないことにざわめきが起こる。
それもそうだ、なんだかんだ本番まで後30分くらいしかない。もう準備を進めないと間に合わない時間だ。
けれど、班乃が居ないという事実は変えようがないし、病院へと送った選択も絶対に間違ってはない。
意を決して、重たい口を開いた。
「ごめん皆。明が急用で……劇、出れなくなった」
その言葉にざわめきがよりいっそう強くなり、安積を取り囲んだ部員達の疑問や不安、不満の声が一身に集まる。
とは言え安積自身も姉が事故にあって意識不明、という情報しか持ち得ていなく、繊細な問題ゆえにどこまで説明して良いも判断に困り言いよどんだ。
詳しい状況を説明しようとしない安積に説明を求める声はより一層強まり、どんどんと部員達の苛立ちが募っていく。
気持ちは分からない訳じゃない。今日までみんな一生懸命に練習してきたのだ。きっと、見せたい相手も居ただろう。なにも言わず中止なんて、納得できるわけはない。
『士気だって下がるだろうし…明も、知られたくないかも知れない……でも、説明、するしかないよな』
意を決し重たい口を開こうとした、その時だった。
そんなざわめきに負けない大きな音がスペース内に響き渡った。
びくつき一瞬にして静まり返ると、一同一斉にその音の方へと視線を向ける。そこには今の今まで1度も声を上げず、黙ったまま静観していた市ノ瀬が座り込んだままうつ向いていた。
音の正体は分からないけれど、床に置いた分厚い台本の上に乗せられている手に筋が浮かぶ程力が込められているのを見れば、恐らく台本を床に叩きつけたのだろうと予測がつく。
うつ向いた顔をゆっくり起こし安積へと集まる部員達へと向けた顔は、今までに見たこともない程の怒りの色に染めていた。
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