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- 20章 -
-文化祭っ!!-
しおりを挟む「じっ……!」
思わず叫びそうになるのをなんとか押さえチラリと班乃の様子を伺うが、相変わらず口をつぐみ茫然としている。
「…それで、無事なんですか?」
班乃からは話を聞けそうもない。本番に備え集まりつつある部員達に混乱を招かぬよう、小声で顧問に訪ねると小さく頭をふった。
「今ご両親も急いで病院に向かってる所だから、詳しいことはまだなにも。ただかなり強く頭を打ってるみたいで…意識はないとだけ。直ぐに処置は始められてるって事だけど…」
「そう、ですか…病院はどこですか?」
「ここから少し離れてるから、車で送ってく」
「分かりました。直ぐ追いかけるんで先生は車の準備お願いします」
「あぁ、けど…発表は」
「……それは、なんとかします」
「分かった。じゃぁ、駐車場で待ってるから」
足早に去る担任を見送った安積は、急速に頭の中をめぐる動揺を押さえるよう大きく息を吸って静かに吐いた。
ここで自分までもが取り乱すわけにはいかない。
「いくよ、あっきー」
「………」
顧問と安積の会話に終始加わることなく口をつぐみ隣に突っ立ったままだった班乃の手を取ると、先に行った顧問を追いかけようと歩き出すがその手がつんっと引っ張られ振り返った。
見上げた班乃は何処か虚ろで…
視線は、合わない。
事故に遭ったと聞かされ、真っ先に班乃の脳裏に浮かんだのはあの時の記憶だ。
赤信号。
横断歩道の向こう側で
申し訳なさそうに両手を合わせる幼馴染み。
青信号。
待ちきれないとでも言うように
大きく手を上げ駆けだした笑顔の幼馴染み。
一瞬にして視界を遮るトラック
一瞬にして姿を消した幼馴染み。
湯気を立てながら雪を溶かす赤と
そこからのぞく
白く、綺麗な、良く見馴れている、華奢な手
そして
真っ白なシーツを全身にかけられ
微動だにしない………
パンッ!という乾いた音と両頬に走る衝撃に、浮かび続ける嫌な記憶が中断され現実に引き戻される。
深く入り込んだ思考の海から急に戻され何度か瞬きをしぼんやりとした視界が定まると、そこに居たのは両手で自分の頬を挟みどこか怒ったような顔をした安積の姿だった。
『あぁ、さっきの音と痛みは安積に頬を叩たかれたから、ですね』
……と、おおよそ今考えるべき問題とは関係のない事が頭に浮かんだ。
「弱音も泣言もっ、後で俺がいくらでも聞くっ。でも今は駄目だろっ…しっかりしろっ、明っ!」
逃げ腰の班乃を逃がすまいとしているかのように両手で頬を掴み強制的に視線を合わせた安積が、周りに配慮した声で、けれど力強く言い放つ。
考えたくない。
けれど目の前の安積がそうはさせてくれない。
「でも……舞台が...」
行きたくない、容態を知りたいが、知りたくない。もし、またあの時のような光景が広がっていたなら……
「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ?」
「……でも、みんな、で、頑張って…きた、のに」
安積とて班乃が目にするかもしれない可能性を想像できない訳じゃない。だがどうなったとしても、今行かなきゃかならず後悔する。
誰かが“居なくなる時”なんて突然なのだ。
「発表の事は気にしなくて良いっ、行くよっ!」
しっかりと手を掴むと抵抗する様に入る班乃の力に負けないよう引っ張り、今度こそ顧問の待つ車へと向かい体育館から飛び出した。
会話は聞こえずとも本番直前にただならぬ様子で飛び出した主役2人の姿に部員たちの間に不安の声が広がる。
そんな2人の姿を、準備の進む体育館に取り残されたざわつく部員達を市ノ瀬は複雑な表情で見つめるのだった。
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