442 / 1,142
- 19章 -
- 決戦前夜 -
しおりを挟む「…本当はさぁ、もう1回3人で最後のすり合わせとかしたかったんだけどさぁー」
「まぁ、気持ちはとても分かるんですけどね」
「ちょっと、あれだな。ラス練頑張りすぎたな」
帰り道を歩く3人の歩調はとても遅い。
本番を控えた最後の練習は皆力が入ると言うもので、体力の限界まで動き回ってしまったのでもう動けそうにない。
「でもまぁ、今日までかなり練習してきましたし2人共もう完璧でしょう?」
「そりゃこれだけやればな!もはやあわせすぎてジュリエットもロミオもセリフ覚えちまったしw」
「まじかっ!なんならジュリエット譲るよ?」
「いや、逆立ちしてもお前以上のジュリエットになれる気なんてしねぇし遠慮しとくわ」
「僕も、安積以外のジュリエットは想像出来ないので、頑張ってください」
「なんだろ、この嬉しいようなそうでないようなこの気持ちっ!!」
いつものような軽口を叩きながら班乃の最寄り駅までつくと、安積はズイッと手を差し出した。
「頑張ろうねっ!」
突然差し出された手に一瞬きょとんとするが、すぐに笑ってその手に自身の手を重ねる。
「勿論です。この日の為に皆で頑張ってきたんですから。全力でやりきりますよ!」
「「………………」」
「えっ、俺も?」
そんな2人を眺めていた市ノ瀬だったが、2人からの無言の視線を受け、同じように手を重ねた。
「ま、せいぜい喰われないように頑張れよ、2人とも」
「うわっ、めちゃ強気!!」
「これはうかうかしてられませんね」
明日への意気込みを言い合い笑い合うと、重ねあった手を1、2と上下させ3で下ろし、3人は手を振りあって別れた。
同じ頃、某ビデオ屋で2人の長身に囲まれた店長が紙袋を覗きながらひきつった顔をしていた。
「「オーダーメイドだから」」
「なんで俺のサイズ知ってんだよ?」
「「なんの為に用意したと思ってるの?」」
「お前らシンクロ率ヤバイな?」
「うちのブランドの一点ものだよ?プレゼントね」
「明日、着て見せてね?」
「いや、普通文化祭はもっとラフに…」
「うちのブランドの一点ものだよ?プレゼントね」
「明日、着て見せてね?」
「壊れて同じことしか喋らない人形か!?」
「「じゃ、また明日!!」」
「あっ、ちょっ!待てよっ!!」
聞く耳もたずに長身2人は背を向けビデオ屋を後にし、1人取り残された店長はもう一度紙袋を覗き、静かなため息と共に再び閉じたのだった。
と、思ったのだが
「「え?やだキム○クのまねっこ??」」
「いちいち戻ってくんなっ!さっさと帰れっ!!」
「えー??待てって言ったの自分じゃんw」
「そうだけどっ!そうだけどもっ!?」
「ほらほら、そんなに怒ると血圧上がるわよお父さん?」
「誰がお父さんだっ!!」
「じゃ、このままじゃお父さんの血管切れちゃいそうだから帰ろうか、お母さん?」
「そうね、帰りましょうかお母さん?」
「設定がばがばだなっ!?」
じゃ!!と元気良く手を上げて、今度こそ2人はビデオ屋を後にし、バックヤードに引っ込んだ店長は急に襲いくる疲労から壁におでこをつけて項垂れていた。
密かにこの3人のやり取りがスタッフ間で名物になっているのは知るよしもなく、其々が文化祭に備えつつ1日を終えるのだった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。


初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる