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- 19章 -
- 決戦前夜 -
しおりを挟む市ノ瀬が安積への気持ちを確固たるものにしたあの日から、演劇部組のお泊まり会は週一で開催され部活動でも毎日文化祭に向けて練習漬の日々が続いていた。
特に、ロミオとマキューシオ、ティボルト率いるキャピレット軍団の乱闘シーンはかなりの見物だが、万が一にも怪我がないように何度も何度もしつこいくらいに練習を繰り返した。
植野はクラスのだし物である縁日風カフェの為、毎日のようにたこ焼きやお好み焼きを作ってはソース漬の日々を過ごし、鈴橋は……思いの外早く準備が終わってしまった為、文化祭があってもなくても変わらないような念入りな花壇の手入れをして過ごし、本番を明日に控え販売用に植木鉢に移しリボン等の手入れをしていた。
そう、遂に文化祭がやってくるのだ。
「なかなか良いじゃん!花屋みたいだっ!」
「はい!なかなか良い具合に出来ましたねっ!花屋さんのお墨付きとか嬉しいですっ!」
ジャージと顔に泥汚れを付けた栽培部部長、冴霧 要と鈴橋の眼下には、種類ごとに色分けされた包装紙とリボンで綺麗に飾り付けられた鉢植えがズラリと並んでいた。
「いつもは殆ど地植えだけど、こうして見るとまた違って見えて良いなぁー」
「地植でも切り花でも鉢植でも、ハーバリウムだってブリザードフラワーだって、其々違った魅力があるし、花ってやっぱり良いものですね」
鉢植のひとつをかかげるように両手で持ち上げた鈴橋は、まるで夏休みにお目当ての昆虫を見事GETした少年のような無邪気な笑顔を表していた。
『こういう顔、色んな場所で素直に出せばもっと交友関係広がって生きやすくなりそうなのに。勿体ないなぁー』
と心の中で思う冴霧だったが、鈴橋自身は特に不自由に感じていない様なので思うだけに止めている。
『まぁ、同じ部活だからこそ見れる貴重な1面としてラッキーくらいに思っとくかw』
「さてっ、準備もOKだし、明日に備えて今日はもう帰るかっ!」
「はい」
「明日、頑張ろうなっ!」
「はいっ!」
にっこりと笑って差し出された冴霧の拳に、少し照れながら拳を会わせると手を振って別れた。
のだが、冴霧の背中を見送った後もう一度部室へと足を向けた。もう1つ、鈴橋には準備しないといけないものがあったのだ。
幾分か迷いのある手つきで丁寧にまとめ、出来上がったそれを椅子に座って暫し物思いに更ける。
変化というものはあまり好まない。
上を目指せばキリがないし、願いが叶えば叶う程、限りなく貪欲に更に更にと願いが出てきてしまうものだ。
願いが叶わず失うことだってあるし、願う前に戻りたいと後悔することだってあるだろう。
ならばある程度の満足のいく所でその環境を持続させる努力をしていく事の方が圧倒的に楽だからだ。
けれど……
目を閉じると大きく深呼吸をして、椅子から静かに立ち上がる。準備した “それ” をひと撫でしてから鞄を肩に引っ掻けると、まだ準備中であろう教室へと向かった。
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