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- 19章 -
- 矛盾と決意 -
しおりを挟む「まぁ、いつか教えてあげるよ」
「んー……分かった。いつか絶対ねっ!」
「おっけー!」
勿体ぶっては居るがその答えは大した事ではなく、言えば拍子抜けしてしまうようなものだ。
だからこそ知らないでいる楽しみ方もある。
それに水面下では世話しなく足を動かすけれど、けしてその努力を感じさせない優雅な白鳥のようでいたい。
少しばかり不満げな弟をスルーし最後の一口をすすると、満足そうに箸を置き苦しそうにお腹に手を当てた。
「んーっ、お腹いっぱーい…ごちそうさまぁ」
「俺もー…でもこんな美味いもん出されたらしょうがないよねっ!食べるしかないよねっ!?ありがとうっ、ごちそうさまっ!」
「こちらありがとう!どういたしましてっ!」
満たされたお腹の幸福感にため息をつくが、それと同時に兄の話から予想された未来に悲しみも訪れ幸せに浸りきれない。
『…聖、文化祭来れないのか。せっかくだし見てほしかったな、発表』
ベストプレイスと言いきるほど好きなのにこの準備期間ですら学校に姿を表さないのだ。本番なんてもっての外、学校に来ることはないだろう。
「なんかちょっと残念だな。聖が文化祭来ないの…前はちょっと失敗しちゃったから、今度こそ完璧な発表見てもらいたかったのに」
「えっ?行くけど、文化祭。見ちゃ駄目なの?」
「…は?ぃや、そー、じゃなくて…え、来るの?」
「俺が行かないわけないでしょっ!なんで行かないなんて思ったの?」
「いやっ、こっちこそなんでなんだけど!?学校行けないって今さっき言ってたよねっ!?」
「聖の晴れ姿見に行かないわけないじゃないっ!前みたいに変装してけば問題ないでしょっ!!それはそれで楽しいしねっw」
「…そう、なの? そう…かな?…そうだ、ね?」
「そうそうっ!楽しみだなぁ、聖達の発表っ!本番、頑張ってねっ!応援してるよっ!」
「うっ、うん…頑張るっ!!応援ありがとっ、楽しみにしててっ!」
そうだ、月影という男はこういう人物なのだ。なんでも楽しみに変えるのは最早特技といっても良いだろう。自分も出来ることなら大人になってもそういうふうにありたいものだ。
しかし変装が市ノ瀬に通じなかった前例がある。少し不安ではあるが、それでも文化祭へ来てくれる。その言葉は諦めて居た安積の胸を高鳴らせた。
以前見に来てくれた発表ではトラブルがあり心残りがあったので、今回こそは完璧な演劇を見せたい。
「なんか、やる気出てきたっ!!文化祭、頑張るからっ!!」
「うん、楽しみにしてるよ、ジュリエット!!」
「っ、頑張るよジュリエットっ!!」
そうだった。
いくらカッコいい姿を見て欲しいと思っても、いくら頑張ったとしても自分は女装。少し複雑ではある…
『いやっ、でも大事な役だしっ、中途半端にやるから恥ずかしいんだよねっ!?やるからには男感じさせないくらい完璧にやってやるっ!』
振り切って突っ走った方が、見る方も演じる方も楽しめる時もあると言うものだ。
気持ち新たに目標を掲げた後、食後の紅茶を楽しみながら雑談を交わしつつまったりテレビを眺めていると、いつのまにか限界突破し夢の中へと旅立った。
そんな弟をなんとかベッドまで運ぶと、愛おしそうに頭を撫でてから月影は安積宅を後にする。
安積や鈴橋、其々が其々の決意を胸にした1日が終わりを告げ、残り僅かな準備期間へとラストスパートを切ったのだった。
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