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慰弦

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- 19章 -

- 矛盾と決意 -.

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部室を後にした鈴橋は植野の元へ向かうのではなく自身の教室へと戻っていた。外では丁度運動部が片付けをしている所だ。

こうして教室から運動部を眺めていると、植野と初めてまともな会話を交わした時を思い出す。

綺麗な項を描く飛び方に目が止まり、なんとなく眺めるようになって、そんな自分に気がついた植野が声をかけて来たのが始まりだった。

“まとも”といっても気恥ずかしさから短い言葉しか返せず、まともと自信をもって言えないのが本当のところなのだが…。

それからなんとなく話をするようになって今に至る。

普通にしていても怒っていると誤解や勘違いされる事が多く、近づいてくる人すらほぼ居なかったので友達という友達は居なかった。

そんな自分に植野のような友達が出来るとは思わなかったし、班乃や安積、市ノ瀬と絡むようになったのも植野の力が大きい。

特に市ノ瀬とは植野が居なければ絶対に関わり合いになることは絶対になかっただろうし、関わってみたら意外と良いやつだったという発見も自分にとっては凄く成長出来たことだと思う。

自分を取り巻く友人関係はすべて植野のおかげだしで、とても感謝している。なんだかんだ、この全員で居ることは楽しい。

自分を取り巻く人間関係は、全て植野が居てくれたから手に入れられたものと言っても過言ではない。

告白されたあとでも、恋人でもない、でもただの友達でもない、ただただ大切な存在として側に居続けてくれる。そんな心遣いに感謝しかない。

が、心苦しさを感じるには十分だ。

心に我慢を強い続けさせて居るのだから。

『そんなの駄目だろ、絶対。駄目に決まってる。相手に我慢させて…それに甘え続けるみたいな事…』


「あっ、がっくん発見っ!教室に居たんだっ!」


物思いに耽っていると突如背後から上がった元気な声で現実へと引き戻される。驚きつつ振り向くと部活を終えたらしい植野が笑顔で駆け寄ってきた。


「いつもは下駄箱で会うのに珍しく居ないし、靴はあったから一応教室来てみたけど…なにかあった?」

「…いや、なにも」

「そう?なら良いんだ、けど……え、なに?」

「いや、なんでもない」


先程までずっと植野のことを考えていたせいか、どうやら無意識に植野の顔をまじまじと見てしまっていたようだ。

困惑強く、しかし微かに頬を染めながら問われるがさっきまで植野の事を考えていたからなど言えるはずもない。


「それより、お前こそどうした」

「え?なにが?」

「歩き方変だぞ」

「あっ、あぁー…まぁ、ちょっとした捻挫?」

「……大丈夫か?」

「だめって言ったらおぶってくれる?」

「…無理だろうな。体力的に」

「ですよねっww」


気がついてくれて嬉しい。
心配してくれて嬉しい。

そんなことを思いながらにやけそうになる顔を取り繕う植野に気がつくことなく、2人揃って教室を出た。

文化祭までもうそんなに日はない。

栽培部の出し物がちゃんと売れるか、クラスの出し物が上手く出きるか、諸々不安はあるがそんなことは鈴橋にとっては二の次三の次だ。

もう1つ、鈴橋にはやらなければならないことがあった。そのことが1番重要でいてとても難しい。

今の関係は自分が望んだ事だ。
あの時植野に伝えた言葉は
あの時の自分の精一杯の嘘偽りない本心だった。

今の関係が心地好いと感じる気持ちはある。
でもそれじゃ駄目なんだと
それだけじゃ、足りないと感じてしまった。

だから ‘“冒険” しなくてはならない。

背後でクラスの出し物について話す植野の言葉を聞きながらも、心の中で再度決心を固めるのだった。


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