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- 18章 -
- 疑惑 -
しおりを挟む双子に名残惜しそうに別れを告げ蓋を閉め、ポトフをよそっておこうと手を伸ばそうとしたところでその手が止まった。
そこには既に市ノ瀬の姿があり、正に自分が行おうとしていた行程を行っている。
『昨日は頑としてソファーから動かなかったのに…』
あっけに取られたままその動きを目で追う。ポトフをよそい終わると、今度は丁度良く焼き上がりの音を立てたオーブンレンジに向かいトーストを皿に乗せ始めた。
「えっ、ありが、と?」
「は?なにが?」
「いや…あっ、冷蔵庫にジャムとかマーガリンとかあるから、欲しかったら使って?」
「おー」
気の抜けた返事をしつつ冷蔵庫をあけ、暫し思考した後マーマレードを取り出した。お盆にポトフとトースト、ジャムを乗せ、ベーコンエッグの皿…は乗りそうにない。そのままリビングへと向かいテーブルに置いた。
『なになにっ!?なにがあったの睦月っ!?』
昨日とは打って変わった態度に困惑していると、再び市ノ瀬が戻ってくる。
『なぜ!?』
「なぜっ!?」
「なにが??」
あまりの困惑に心の声がうっかり外に出る。
「あっ、なんでもない」
「変なやつ」
『お前がなっ!?』
自分の変化に気がついていないのか、さして気にしていないかのように辺りを見渡した市ノ瀬は、再び安積へと視線を戻した。
「他になにかあるか?運ぶもの」
「えと、あと卵だけだから、大丈夫。もうすぐ出きるから持ってくよ。なんなら食べ始めてて良いし」
「そ。じゃー、よろしく」
「おう」
さして何も気にする様子もなく大人しくテーブルへとついた。
「やってんなぁー」
「ええ、今回は台本の出来上がり遅かったので、ちょっと詰めて行かないとって」
「あっ、そうだ、昨日聞こうと思ってた所がさぁー」
「はい、なんでしょう」
あまりにも自然なその様子に戸惑っている自分の方がおかしく思えて来た。言ってはなんだがあまり手伝いとかをするタイプではないと思っていた、いや、そういうタイプだったはずだ。だからこその戸惑いだし自分はおかしくない、はず。
その市ノ瀬がなにも言わず自ら準備したのだ。
『なにか裏でも??やっ、流石にそこを疑うのは失礼か…なんかあったのかな??っと!!たまご!!』
焼きすぎたか?と心配になったが、どうやらギリギリセーフのようだ。盛り付けた皿を持ち、演劇トークを繰り広げる2人へと合流したのだった。
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