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- 18章 -
- 疑惑 -
しおりを挟む洗面台の前に立つと鏡の中の自分と見つめあい、そっと自分と手を合わせる。
「そうか、お前。
やっぱ…
好きだったのか」
そんな筈ないと目をそらし確信へ迫らずにいたけれど、もはやその誤魔化しは効かなそうだ。
主役であるロミオを演じてみたかった。
それは純粋に主役を演じてみたいという気持ちもあったが、どうやらそれだけではなかったのだと今自覚した。
恋人だからしたいと思うこと、許されること。
それが安積にはある。
劇中であれ、安積の恋人を誰かに演じて欲しくない。子供じみてるけれど、正直な気持ちはこれだ。
「いいな、明は」
羨ましい。
『…でも、劇中だけだしな』
それだけでは満足できない。
それ以上が欲しい。
劇中だけの幸せだけで良いなんて消極的な気持ちは持ち合わせていない。
しかしそれは異性と付き合うよりもはるかに難しい事だろう。しかも安積は“特別”を増やしたいと願い思い悩む程、班乃に好意を抱いているのだ。
それが友人としてなのか恋愛対象としてなのかは分からないけれど、もし後者なら…
「…どーすっかなぁー」
唯一の救いは万が一後者だとしても班乃にそういう気持ちがない所だ。だからと言って今すぐに答えを出すのは難しのには変わりないが。
『ま。今ここでうだうだ考えてても答えなんてでねぇよな。腹も減ったし、さっさと顔洗って戻ろう』
冷たい水を顔面に浴び気持ちを切り替えると、再び2人の待つリビングへと戻った。
「あー、腹減る匂い」
「分かるー!ベーコンの焼ける匂いってヤバイよな!」
匂いに引き寄せられるように安積の立つ台所へと入ると、フライパンの中でベーコンが程よい焦げ目をつけていた。卵が傍らにあるのを見るとベーコンエッグだろう。隣のコンロには昨晩のポトフが湯気を立て、スペースの空いた皿の中にはサラダと、ポトフと同じく昨晩の残りのパスタが添えられている。稼働しているオーブンレンジをのぞくと食パンが焼かれている最中だった。
(十分過ぎる朝ごはんだ。腹減った)
「あっ!!」
「ん?」
「睦月!!みてみてっ!!」
突如声をあげたかと思うと、嬉々としてフライパンを指差し手招きをしていた。何事かと指差す方向をのぞくとー
「おー、珍し」
「だよなだよなっ!?双子の卵ーー!今日はなにか良いことありそー!!」
卵くらいで…とは思うが、素直にはしゃぐ姿は純粋で可愛らしさがある。こういう素直さはあまり持ち合わせて居ないので、余計に惹かれてしまうのかもしれない。
「そうだな、なんか良いことあると良いな」
「今日に期待っ!あっ、卵半熟派、カチカチ派?」
「垂れない程度の半熟派」
「絶妙なところつくなっ!」
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