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- 18章 -
- 疑惑 -
しおりを挟む(ここ、どこだ)
「知らない天井だ……」
どこかで聞いたことのある台詞を呟き上半身を起こすと、ぼんやりと周りを見渡し昨日の記憶を辿った。
「…あぁ。安積の家か」
遮光カーテンの隙間から差し込む光を見るに大分日が登ってることが分かる。どうやら鳥が囀ずる時間も過ぎさっているようだ。
隣の部屋からは耳を澄まさなければ聞こえないほどの微かなTVの音と、トーンを押さえた話し声が聞こえてくる。そんな彼等の優しさに胸へじんわりと広がった暖かさをすぐに手放してしまうのは勿体ない気がして、再び布団へと体を横たえ目を閉じた。
『良いもんだな、こういうのも…』
こんな穏やかな朝はいつぶりだろうか?
柄にもない事が頭に浮かぶが悪い気はしない。この穏やかさをもう少し堪能していたい気もするがいつまでも気を使わせたままと言うのも申し訳ない。布団から起き抜けある程度の身なりを整えると寝室を出た。
「あっ、おはよー、睦月っ!」
「おはようございます」
「…はよ。顔洗ってくる」
「いってらっ!あっ、朝飯食う?」
「んー…」
時計を見ると9時半を過ぎていた。今食べたら昼御飯が……とも思ったが、腹の空き具合からして昼間で持ちそうにない。
「食う」
「OKっ!昨日の残りと簡単なものだけど良い?」
「…………」
「…えっ? だめ?」
準備をしようと台所へ向かうが市ノ瀬からの返事がない事に立ち止まり、不安そうな表情で振り返った安積をまじまじと眺める。
『…間違い、ではねぇな』
先ほどの夢の中で手を伸ばした愛しい人。
何もかも捨てて一緒に逃げようとしたあの人。
手を繋ぐ瞬間に見えたその顔はー
なぜか安積だったのだ。
どう思い返してみても、見間違いではない。
しかも、夢の中の舞台設定お構い無しの見慣れた制服姿で。
「えっ?なになに??なにまじまじ見てんだよっ!?なになんかついてるっ!?…なんか怖いんだけどぉ!?」
なぜあそこに居たのが安積だったのか。文化祭のジュリエット役だと言う理由もありそうだけれど…
それ以外の意味は………
「睦月?」
「…出来るか出来ないかって言われたら」
「ぅん?」
「………出来るな」
「はぁ?」
「顔洗ってくる」
「おっ、おぉ、いってら??」
意味が分からず戸惑う安積を放置し洗面台へと向かうと、鏡へと目を向けた。
あそこで安積が出てきた事で胸の中に引っ掛かったのは、“安積が居たこと”ではなく、本当はそれが“嬉しい”と感じてしまった自分自身の感情にあった。
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