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- 18章 -
- 疑惑 -
しおりを挟む本当はもう少し堪能していたかったがいつまでもそうしているわけにはいかない。安積にはベッドへとご退場していただこうと肩を揺さぶり声をかけるが起きる気配はない。
『…しょうがないですね』
抱き上げてベッドまで運ぼうかと思ったのだが小柄と言っても完全に力の抜けた人間を運ぶのはなかなかに一苦労だ。毎日の日課だと筋トレをしている市ノ瀬ならばと風呂から出るまで待つことも考えたがなんとなく長くなりそうだ。
『大丈夫。きっとなんとかなる…はず。…多分』
丁度良くソファーに座っているし、おんぶならなんとかなるんじゃないかと手を取り腕を持ち上げると、小さな唸り声と共にゆっくりと瞼がもちあがった。
『良かった……いや、ちょっと残念、かも…』
「ぁー…ごめん、寝落ちってたぁー…」
「いいえ。すいません、起こしてしまって」
「ぅうん。全然だいじょー… .あれ?もしかしなくても髪乾かしてくれた?」
「えぇ、睦月が」
「えぇー?まじかぁー…やさしぃー…」
予想外の返答に一瞬目を見開くが、直ぐ様今にも閉じてしまいそうな程に瞼を落とす。優しさを確かめるように乾いた自身の髪を何度か撫で付けるがその変化には気が付いてないようだ。
『鏡見ないと分からないですよね。写真、撮っておけば良かったな…』
「あー、駄目だ…眠たい。ベッド行く…ぁっ、お布団出してなかった」
「あぁ、良いですよ。出しておくので安積はもうお布団入ってゆっくり寝てください」
「ぇっ、好き。ありがとぉー…じゃ、遠慮なく」
「っ、ほらっ、ちゃんと毛布かけてっ」
「んー……」
言い終わるかどうかのタイミングで布団の上からベッドに倒れこもうとするのをなんとか阻止し、エスコートするかのように布団を持ち上げるとその隙間にのそのそと安積が潜り込んだ。
寝る姿勢がとられたことを確認し布団を下ろすと、されるがままの安積が顔を半分だけ出して班乃をじっと見つめた。
「なんです??」
「なんか、お母さんみたいだなって」
「……その評価は、あまり嬉しくないですね」
「ぇ、ごめん…ほめたつもりだったんだけど…」
「そう、ですか。まぁ良いです。おやすみなさい」
「ぅん、おやすみー」
最後の力を振り絞ったかのように“にへっ”と笑みを浮かべると、今度こそ布団に潜り込み夢の中へと旅立った。
『可愛いとか…思うのは、駄目ですって…』
そんなんじゃいつまで経っても諦めるなんて出来ない。思い込みが本心になることだってあるのだ。
『大丈夫。…可愛いなんて、思ってない』
うつ向き両手で顔を覆い隠すと心の中で自分にきつく言い聞かせる。しかし騒がしく動く鼓動を止めることは出来ず、ドライヤーの音でなんとか誤魔化した。
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