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- 18章 -
- 疑惑 -
しおりを挟む生立ちや病気など共有していた秘密や、捨てられた(と思っていた)指輪を寒空の下わざわざ川に入り込んでまで探してくれた事、他の誰よりも共に過ごす時間の多さ、家族関係者以外で初めて幼馴染みに関する秘事を打ち明けた事、墓参りまで付き合ってくれたことなどの諸々が、安積にとって自分は多少なりとも特別なんじゃないかと思っていたけれど…
よくよく考えればその全てを知り得たきっかけは偶然だし、多くの時間を過ごす事になったのも自分がたまたま学級委員だったから、指輪の事だって墓参りだって、それが自分じゃなくても安積はきっと同じことをしただろう。
安積にとってなんら特別でもない事を特別だと思い込んで、恋心まで抱き押さえきれず……キス、まで…。
「ーーー~っっ!!」
「んっ!?どうしたあっきー?指でも切ったっ!?」
「っ、大丈夫ですっ、問題ないっ」
「大丈夫じゃない気がするっ!?」
班乃の珍しい反応に困惑した視線をむける安積を気にかける余裕はなく、なんて浅はかで考えたらずで思い上がり野郎なんだろうと羞恥心で死んでしまいそうな気持ちで埋め尽くされる。
安積が班乃に対し“特別”を求めていると言うことはまだ知るよしもなく、話題が演劇へと移った事に安堵しそちらに全集中して、居たたまれない気持ちを誤魔化した。
『やっぱ、あんまり良くないよね…』
生い立ちに関して話す事にそこまで抵抗はない。兄について分からないことやモヤがかかったように思い出せない記憶も沢山あるが、今は別々に暮らしていた時間を埋めるように頻繁に会ってもいるし、いつか思い出になる良い時間を過ごさせてもらってもいる。
けれど人一倍他人を気にかけてくれる班乃の事だ。いつも優しく話を聞いてくれるのでついつい甘えてしまうが、あまり生い立ちに関する話はしないほうが良いのかもしれない。
『……もしかしたら迷惑だって思ってるかもだし。思っても聞いてくれちゃいそうだし。…負担かけるのは、嫌だし』
なんだかいつもと違う班乃の様子に心配になりそれとなく話題をそらすと、少しづついつも通りに戻って行くのを感じ密かに安堵のため息をついた。
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