418 / 1,151
- 18章 -
- 疑惑 -
しおりを挟む生立ちや病気など共有していた秘密や、捨てられた(と思っていた)指輪を寒空の下わざわざ川に入り込んでまで探してくれた事、他の誰よりも共に過ごす時間の多さ、家族関係者以外で初めて幼馴染みに関する秘事を打ち明けた事、墓参りまで付き合ってくれたことなどの諸々が、安積にとって自分は多少なりとも特別なんじゃないかと思っていたけれど…
よくよく考えればその全てを知り得たきっかけは偶然だし、多くの時間を過ごす事になったのも自分がたまたま学級委員だったから、指輪の事だって墓参りだって、それが自分じゃなくても安積はきっと同じことをしただろう。
安積にとってなんら特別でもない事を特別だと思い込んで、恋心まで抱き押さえきれず……キス、まで…。
「ーーー~っっ!!」
「んっ!?どうしたあっきー?指でも切ったっ!?」
「っ、大丈夫ですっ、問題ないっ」
「大丈夫じゃない気がするっ!?」
班乃の珍しい反応に困惑した視線をむける安積を気にかける余裕はなく、なんて浅はかで考えたらずで思い上がり野郎なんだろうと羞恥心で死んでしまいそうな気持ちで埋め尽くされる。
安積が班乃に対し“特別”を求めていると言うことはまだ知るよしもなく、話題が演劇へと移った事に安堵しそちらに全集中して、居たたまれない気持ちを誤魔化した。
『やっぱ、あんまり良くないよね…』
生い立ちに関して話す事にそこまで抵抗はない。兄について分からないことやモヤがかかったように思い出せない記憶も沢山あるが、今は別々に暮らしていた時間を埋めるように頻繁に会ってもいるし、いつか思い出になる良い時間を過ごさせてもらってもいる。
けれど人一倍他人を気にかけてくれる班乃の事だ。いつも優しく話を聞いてくれるのでついつい甘えてしまうが、あまり生い立ちに関する話はしないほうが良いのかもしれない。
『……もしかしたら迷惑だって思ってるかもだし。思っても聞いてくれちゃいそうだし。…負担かけるのは、嫌だし』
なんだかいつもと違う班乃の様子に心配になりそれとなく話題をそらすと、少しづついつも通りに戻って行くのを感じ密かに安堵のため息をついた。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

もういいや
ちゃんちゃん
BL
急遽、有名で偏差値がバカ高い高校に編入した時雨 薊。兄である柊樹とともに編入したが……
まぁ……巻き込まれるよね!主人公だもん!
しかも男子校かよ………
ーーーーーーーー
亀更新です☆期待しないでください☆

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
純白のレゾン
雨水林檎
BL
《日常系BL風味義理親子(もしくは兄弟)な物語》
この関係は出会った時からだと、数えてみればもう十年余。
親子のようにもしくは兄弟のようなささいな理由を含めて、少しの雑音を聴きながら今日も二人でただ生きています。

生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる