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- 18章 -
- 違和感 -
しおりを挟む『独占欲を上手く隠せない自分が、周りに与える影響……って事か?』
そうだ、安積は自分の事よりも、周りを気にかけ過ぎるきらいがある。自分がどんなにしんどくて辛い思いをしても、誰かの為に頑張ってしまう。寒い時期に川に入り、見つかる可能性なんてほぼない小さな指輪を探してしまうほどには……
自分のしでかした過ちを思い起こさせて、市ノ瀬は小さく頭を降った。
今は俺が反省するところじゃないと再び安積の悩みへと頭を切り替える。
確かに今日植野が班乃を名前で呼んだ時、安積の様子が何かおかしかったのには気がついた。きっと自分が転校してきた時も、“安積の様子がおかしい”と、思った人も居たのだろう。
“安積の様子がおかしい”
と周りに気を使わせてしまう事。
押さえきれない独占欲が、今ある周囲の関係性を壊してしまう事を懸念しているのではないか。
ではないか、ではなく、懸念している、と不思議と確信が持てた。いかにも、安積らしい悩みだ。
自身のために独占欲を満たす方法ではなく
他者のために独占欲を押し込める方法を。
皆仲良く幸せが1番だと…
「俺だったら…」
「うん?」
「もっと特別を作るよ」
「…どーいうこと?」
ほぼ確信を得たとはいえ憶測ではある。一口の紅茶で喉を潤し少し迷いながらも慎重に言葉を発した。
「今まで特別だった〝何か〟が、特別じゃなくなったのなら、別の特別を作る。いつまでも特別でありたいのなら、自分だけしかしない、自分だけしか出来ない、自分だけしか知りえない、相手しか知らない、そういう〝特別〟を常に新しく作ってく努力をする。いつまでも変わらない物なんてない。友好関係とか、人間関係なんて特にさ」
「特別を新しく作っていく……?」
「そう。特別で居たいって望んでるのは自分自身だろ。だから相手に求めるんじゃなくて、周りに嫉妬を感じたり変化を求めるんじゃなくて、自分自身が特別でいる努力をする。そうすれば結果は後からついてくるし、相手の友好関係を壊す事もないだろ?」
「そ、か……」
「と、俺は思うけどね」
それきり、2人の間に沈黙が訪れる。組んだ自分の両手に視線を落とし黙り込む安積にチラチラと視線を投げながら、おかしな事を言ってしまったのではという不安にチマチマと紅茶を飲んで落ち着かない気持ちを濁す。
時計の秒針さえ聞こえてきそうだ。実際時計なんて物はこの部屋には見当たらないので比喩ではあるけれど。
沈黙に耐えきれず、声を発しようと息を吸い込み顔をあげた市ノ瀬の目に飛び込んで来たのは、眉を下げ泣きそうではあるものの、満面の笑みをした安積の顔だった。
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