Pop Step

慰弦

文字の大きさ
上 下
391 / 1,142
- 18章 -

- 違和感 -

しおりを挟む
市ノ瀬は気にするなと言うけれど、やはり全く気にしないと言うのは難しい。

自分の基準で作って文句を言われたことはないので、量に関しては班乃と一緒に夕飯を取る時と同じで良いだろう。自分も班乃と大食漢と言うわけでもないし。

『なら…あとはー』

安積は並ぶしょうが焼き用の肉を一通り眺め、一番脂身の少ない物を選んで買い物かごへと突っ込んだ。


「里芋とほうれん草とー…サラダは家にあるのでいっか」

「なんでも良いよもう。終わったなら早く行こうぜ。さっさとここから出たい」 

「えっ、うん?じゃぁ、レジにー」

「あー…やっぱ先外行ってるわ。金は後で払うから」

「えっ?うん、分かっーあっ!お金はいいよっ。いらない!」

「なんでだよ」

「ほら、なんか無理矢理誘った感じになっちゃったし、お礼…的な? じゃ、レジ行ってくる!」

「…あぁ」


そそくさとレジに向かう安積を暫し目で追ってから、市ノ瀬もいち早くこの場を離れるために足早で外に設置されているベンチへと向かった。

周辺は店内と同じように主婦や家族連れが行き来しているが、店内に居るよりは幾分かましだった。

ベンチへと腰を下ろし居心地の悪さから解放された安堵から深いため息をつくと、不意に頬を撫でた風の心地よさに無意識に目を閉じた。

視界を閉ざし聴覚が澄まされれば、沢山の人の声が聞こえてくる。他にも風が木々を揺らす音や、車や自転車の走行音、自動ドアの開閉音、カートを押す音や、店内放送、近くにある信号の青信号の音楽、上げればきりがないほどの音が聞こえてくる。

そんなものに、意識を向けた事なんてなかった。

安積達と出会う前は。

どういう心境の変化なんだと聞かれても自分でも分からない。けれど、そうなったのは確実にこの学校に転校して来てからだ。

安積達とつるむようになってからなのは間違いない。

緩く吹く風が体全体に当たり、髪を揺らし、まだまだ残る厳しい残暑で火照る体を幾分か冷やしてくれる。

それら全てに、心が穏やかになっていく感覚は今までになかった。

そんな自分自身の変化が、嫌ではないと感じているのも、確かなことだ。


「お待たせー会計終わったよー」


ベンチに座る自分へ買い物袋片手に声をかけながら小走りで駆け寄ってくる安積を見て、なんだか可笑しくなって… 


「…なに笑ってんの?」

「なんか、変な感じだなって」

「へん?」

「別に、なんでもねぇよ。さっさと行こうぜ。腹減った」

「同意!俺も腹減ったっ!早く帰ろっ!」


これが彼女だったら買い物袋を持ってあげる所だなぁー…とぼんやり考えつつ、彼女、というか、チビガリでも男である安積にそんな事してやる必要はないかと、そのまま先行する安積の後を追うようにして安積宅へと向かうのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。 このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。 そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。 一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて… 那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。 ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩 《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

処理中です...