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- 17章 -
- 初体験は同級生の妹 -
しおりを挟む思いの外和やかな空気が流れる中、無機質な音を合図に取り出した体温計のデジタル数字は37℃台を表記していた。
「37℃。もう大丈夫。怠さは残ってるけど目眩とかも収まったし。…迷惑かけた。本当、色々ありがとう」
差し出された体温計を確認してから鈴橋の顔を見る。確かに先程よりは赤みも落ち着き汗もだいぶ引いて居るように見えた。これならもう大丈夫だろう。
「じゃぁ、帰るわ俺」
「あぁ」
「紗千はどこに寝かせる?」
「風邪うつすと大変だから両親の寝室に寝かせるよ。俺が連れて行くから」
「分かった」
起こさないようにそっと立ち上がり両手を差し出す鈴橋へと渡そうとするが、どうやら眠りが浅くなっていたらしく紗千がゆっくりと目を開けた。
寝ぼけ眼のまま紗千がゆっくり兄の頬へと両手を伸ばした。悲しげに下がる眉が心に突き刺さりつられて泣きそうになるのを堪えると、安心させるように頬に触れる妹の手に自分の手を重ねる。
「おにいちゃん…悪い事してごめんなさい 」
「…いいよ。兄ちゃんも、急に怒ってごめんな」
「うん…おにいちゃん、元気になった?」
「あぁ。紗千のおかげだ。頑張ってくれてありがとう」
「良かった…おにいちゃんが、元気になってくれて、良かった」
兄の元気な姿にほっとしたような表情を浮かべ、今度は自分を抱き抱えている市ノ瀬を見上げた紗千は、にっこりと微笑むとぎゅっと力強く抱きついた。
「むつにぃっ、ありがとう。ジュース、ありがとう。 ぱっちん、ありがとう。 宝物にするね」
「あぁ」
それだけ言うと糸が切れたように再び眠りについた。兄の風邪から始まり今の今までの事を考えると相当疲れたに違いない。
眠った紗千を鈴橋に手渡すと、今度は起きることなくすやすやと寝息を立てていた。
「冷蔵庫にゼリー入ってっから食えそうだったら食っとけよ」
「…あぁ」
「あと暖めるだけの粥も。選んだのは紗千な」
「分かった。助かったよ。ありがとう」
「…別に。じゃぁ、今度こそ帰るから」
「あぁ。…ぁ、ちょっと待った」
「なに?」
「いや…そのー…」
珍しく淀む鈴橋に首をかしげもう1度短く促すと、申し訳なさそうに視線をあげた鈴橋が漸く言いにくそうに口を開いた。
「紗千は、その…ちゃんと現金、持ってたか?まだ紗千にはお小遣いあげてないから」
「……あぁ、大丈夫」
「そっか…お年玉、残ってたかな」
「さぁ?」
真面目な鈴橋の事だ。支払わせて居たのなら返そうとかそういった話をしようとしたのだろう。当たり前と言えば当たり前だが、でもー
「あっ、あと、ジュースとかパッチンって?」
「あぁ。デパートて会った時凄まじく号泣してたからな。落ち着かせんのにジュースやったんだよ」
「……悪い」
「別に良いって」
玄関へと向かいながらジュース代をと言いかける鈴橋の声に手のひらを振り応えると、靴を履きドアノブへと手を掛けた。
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