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- 17章 -
- 初体験は同級生の妹 -
しおりを挟む「……なんで、1人で買い物なんて……あれほど、1人で出掛けるなって言っておいたのに。事故にでもあってたらとか……本当に……もう…」
ぎゅっと布団を握った手が微かに震えている。安心したとたん恐怖が襲ってきたのだろう。
そんな兄としての姿に、自分の姉はこんなふうに心配してくれた事はあるんだろうかと、場違いな思いが頭に浮かんだ。
『……いや、ないだろうな』
別に羨ましいとは思わないけれど。
お互いを思いやって、喧嘩して。
なんて、仲の良い兄妹なんだろうか。
「……風邪引いた時に、お前と両親がゼリーとスポーツドリンク買ってきてくれて、元気になったって。 だからそれを食べればお前が元気になるんじゃないかって言ってた」
「………………」
「まぁ、1人で買い物に行った事は誉められた事じゃないし怒るのもしょうがないけどさ。 風邪ひいた兄の為にって気持ちは怒っちゃ駄目なんじゃないか?」
そう言いながら紗千を見つめる市ノ瀬の目は、我が儘放題で縦横無尽で、安積と低レベルな言い荒らそいをしている普段の姿からは想像も出来ないような、とても優しい目をしていた。
同級生の違う一面を見た気がして、むず痒い気持ちと暖かい気持ち、どうやら自分が思っていたほど悪い奴ではないのかも知れないと、子供を思いやる優しさや冷静な面も持ち合わせているのだと、認識を改めさせられた。
「…市ノ瀬」
「んだよ」
「お前の言うとおりだよ。 せっかく頑張ってくれたんだ。迷子にもなって心細かっただろうに…。あんな怒りかたするのは良くなかった」
「…………」
「ありがとう。紗千を連れてきてくれて。本当に」
そう言って微笑む鈴橋の顔は、本当に優しそうな穏やかな顔をしていた。
学校で見せる顔とは大違いだ。
そして、先ほど鈴橋が感じていたような気持ちと同じような事を、市ノ瀬も感じていた。
自分が思っていたほど冷徹インテリ根暗眼鏡ではなく、優しさももっているんだと、柄にもなく暖かい気持ちになった。
「そういえばお前、熱は?」
「あぁ…さっきは39度近くあったけど、多分、今はもう大分下がったと思う」
「9度って……とりあえず、もう1回熱計っとけ」
「……あぁ」
思いの外高熱を出していた事に驚き再度熱を測るように促すと、気だるそうなため息をこぼしながら体温計を手に取り大人しく測り始める。
「そんなんじゃ、無理もないな」
「…なにが?」
何処を見ているのか分からない目でぼんやりとしている鈴橋の様子に、紗千の言っていた事が頭によぎった。あの時は大袈裟だなと思ったけれど…
「こいつがさ、言ってたんだよ。 お兄ちゃんが死んじゃうって。 咳して苦しそうって言ってたけど子供の言う事だし、ただの風邪だろって。大したことないんじゃないかって思った。んだけど、あながち死んじゃうって言っちゃうのも間違いじゃなかったなって」
「…大袈裟だな」
「9度は大袈裟じゃねぇだろ。兄ちゃんも大変だな」
「……そうだな。でも、楽しいよ」
「そっか」
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