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- 17章 -
- 初体験は同級生の妹 -
しおりを挟むそれは、冷静に考えれば直ぐに分かるものだった。
「これの事か?」
風邪の定番と言えばポカリだろう。
確かに、白くて半透明だ。
少女の表現に間違いはない。
間違いがあったのは自分の思考の方だ。
「そぉっ!それっ!それだよっ!!紗千が探してたのそれっ! 凄いっ!凄いねむつにぃっ!!」
ポカリを手に取り少し離れた所で探し続けていた紗千に差し出すと、キラキラと光る尊敬の眼差しと盛大な拍手で迎えられる。
受け取ったポカリを大事そうに抱きしめた紗千は元気よくお礼と言うと市ノ瀬へと満面の笑みを向けた。
「……良かったな。見つかって。ほら、兄ちゃん待ってんだろ? さっさと買って帰ろうぜ?」
「うんっ!!これでお兄ちゃん元気になるよねっ!!」
「あぁ。…それに、その…頑張ったしな。お前も」
「うんっ!!ありがとむつにぃ!!」
「もう良いよ。礼は……行くぞ」
「うんっ!!」
自分の発言の恥ずかしさに耐えきれず先を促し歩き出すと、パタパタと追いかけてきた紗千が
なんの躊躇いも
警戒心もなく
極々自然な動作で
市ノ瀬の手をつかんだ。
『あああああああぁあぁあ、もうっ!』
なんだこの可愛い過ぎる生き物はっ!
心中悶えながらなんとか平常心を装った表情を保ち鼻歌を歌い歩く紗千としっかりと手を繋ぎレジへと向かっていると、急に鼻歌が止まり繋いだ手が引っ張られる感触がした。
振り返るとそこには、おまけが付いたお菓子を見つめ立ち止まっている紗千の姿があった。
「……欲しいのか?」
そう問いかけるが、お菓子を見つめたまま動かない。しょうがなく隣にしゃがみそのお菓子を手に取り繁々と眺める。
「これ、好きなのか?」
「………」
詳しくは知らないが、これには日曜の朝にやっている子供番組のキャラクターとお揃いの髪どめがついているようだ。
ぎゅっと口を結び黙り込んだままお菓子を見続けている紗千がこれを欲しがってるのは一目瞭然である。
「これ、持ってんの?」
そう問いかけると、微かだが首を横にふった。
「…じゃぁ、これも買ってくか」
しばし悩ましげな表情を浮かべた紗千は、リュックからウサギの形のポーチを取り出して、開いて、中を見て、再び閉じた。
そして、再び沈黙。
『あぁ、足んねぇのね。分かりやすっw』
本当はこんなことする義理もなければ、勝手なことするなと怒られるかもしれないけれど。
紗千の手からお菓子を奪い取ると、それをそのままかごへと突っ込んだ。
「じゃ、これは俺がお前に買ってやる。兄ちゃんの為に1人で頑張ったご褒美な」
そう伝えたとたんパッと華やいだ笑顔を浮かべたかと思うと、紗千がぎゅっと市ノ瀬に抱きついた。
いや、飛び付いた。
「ありがとう!ありがとうむつにぃ!大好きっ!!」
………あぁ、今までこんなにも純粋な告白なんて聞いたことがあっただろうか。
不覚にも赤面しそうになるのを深呼吸で誤魔化し嬉しそうにかごのお菓子を見つめる紗千の背中をぽんぽんと叩くと、今度こそレジへと向かったのだった。
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