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- 17章 -
- 文化祭まで後1ヶ月弱 -
しおりを挟む『感情豊かで見ていて本当に面白いですね』
そんなことを思われている事なんて思いもしないであろう安積は盛大に溜め息をつき、黒板に書かれている文字を心ここに非ずといった様子でノートに書き写していた。
後で慰めてあげないとなぁーなどと考えながら安積を見ていると、先週の席替えで彼の真後ろになった人物が静かに手を伸ばした。
「?」
なにかが触れた気がしたのだろう。
安積が後頭部に手を当てて後ろを振り返った。
それに対して"なんだよ"とでも言っていそうな顔でちょっかいを出した張本人、市ノ瀬が眉をしかめれば、安積はなんでもないと軽く左右に首を振って前を向き直した。
『…まったく。なにをやってるんでしょうね、あの2人は』
そんな様子は2人の少し斜め後ろの席に座っている班乃には丸見えで、呆れて溜め息をつく。
『睦月も安積が落ち込んでるのは分かっているでしょうに。もう少し優しくしてあげても良いんじゃないですかね…』
その後ちょっかいを出された安積が振り返りちょっかいを出した市ノ瀬が眉をしかめる、という行動を2~3度繰り返した所で流石に安積も気がついたようだ。
文句を言おうと振り返り開きかけたその口は、直前で授業中だと思い出したのか1度悔しそうに閉じ、睨みをきかせると口パクでなにかを言い再び前へと向き直った。
後ろの席では、笑いを噛み殺した市ノ瀬が肩を揺らしている。
そんな2人の様子を見ていると、呆れもするのだが…
しかしだ。
先程まで落ち込んでいた筈の安積からは、すでにその様子は感じられなくなっている。
ここでふと気がついた。
もしかして、もしかすると…
『あれは睦月なりの励まし、だったのでしょうか』
しかしながら、落ち込んでいた状態から脱出させても怒らせるのはどうかと思う。
『…本当に分かりづらい人だなぁ、睦月は。ある意味、良いコンビかもしれませんね』
ちょっかいを出す事を単純に楽しんでいると言うことも考えられるけれど、そこはあえて良い方に考えることにした。
元気になってくれて喜ばしく思うのは間違いないのだけれど、慰める必要はなくなったという事に微かな無念を感じつつ班乃も授業へと意識を集中させた。
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