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- 16章 -
- 本番と波乱 -
しおりを挟む「だからさ、もう良いじゃん! 結果無事成功したんだしっ!」
「…そう、だな」
話はこれで終わりとでも言うように背伸びをした安積は、2人のやり取りを黙って見ていた班乃の背中をぽんと叩き更衣室へと歩き出す。
肩に手を当て衣装重いと呟きながら消えていく後ろ姿は、本当にもう何も気にしていないようだ。
「では、急いで着替えてくるので睦月は先に戻っててください」
「分った」
更衣室へ消えていく2人の背中を見送りながら、市ノ瀬もホールへと歩き始めた。
盛大なミスをおかしておいてとは思うけれど、やはり客席に居たあの人が気になってしまう。一般客は1階席、生徒達は2階席になるので、運が良ければ確認出来るかも。
期待を募らせながら席に戻ると、他校の演技が終わり丁度はけている所だった。
今なら前に出ても邪魔にはならないはず。 2階席の最前列まで出てあの人が居たはずの場所を見下ろすが、すでにその場所は空席となっていた。
「…もしかしたら会えるかもって、思ったのに」
これで見間違いだったら、今日のミスは本当にただのミスになってしまう気がして…気付かれないように下唇を噛んで、静かに席へと戻った。
「まさか気がついたなんて事はないですよね?」
「…まっさかぁ」
着替え終わりメイクを落としている安積達の頭の中は市ノ瀬の事で持ちきりだった。
「安積は舞台上から月影さん見つけられました?」
「まぁ、ね。演技中客席ガン見できるシーンあったでしょ? その時に一応」
「そうですか…どうでした? もし睦月が見たとして、月影さんって気が付きそうな感じでした?」
「いやー…睦月が聖を見たのって確か1回だけのはずだよな? 服装も髪型も普段とは違ってたし、あれで気づいたらすげぇよ」
「じゃぁ、見つけた訳ではないんですね」
「…多分ね」
今回はうまく誤魔化せたから良いとしても、今後も市ノ瀬の様子がこのままなら少し考えものだ。
でも…
「月影さんに学校に来るなとも言えないですし」
「睦月に忘れろって言っても駄目だろうしなぁ」
「いっその事、本当の事を打ち明けては?」
「めっちゃキレられそうで怖いなぁ…。でもこのままだと困るもんね。聖にお願いしてみようかな」
「それも良いかもしれませんね。大丈夫、心配しなくても怒られる時は一緒ですから」
「…体は子供、頭脳は大人」
「もじった訳ではなかったんですがw 怒りの導火線は無事切れそうですよね…」
「爆発しなきゃ良いなぁー…」
冗談を交わしながら市ノ瀬に打ち明けるという1つの提案に顔を見合わせるが、その表情は肯定的な言葉とは裏腹に疲労を浮かべていた。
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