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- 16章 -
- 本番と波乱 -.
しおりを挟む「いや、まだ大丈夫。 それより…」
呼び止めたくせに、言いづらそうに口の中でモゴモゴとしている。
「どうか、しました?」
「…悪かった」
「は?」
謝罪なんて口にしそうもない人物から急に謝罪の言葉が飛び出し安積が思わず間抜けな声で聞き返すと、見上げた顔は少しだけ赤くなっている。
「あっ、あぁ…うん、良いよ、別に。 何とかなったし。ほんと、全然大丈夫だから」
しかしそんな気づかう安積の言葉は市ノ瀬の癇に触ったらしくきつく目が吊り上がった。しおらしく謝罪を入れてきたかと思えば即座に怒りだす急激な変化に今一ついていけない。
「今まで皆で頑張ってきたのに、そんな簡単に許して良いのかよっ!?」
「…はぁ?」
『意味わかんないんですけど…』
自分としてもミスは誰にでもあり同じことを繰り返さないようにすれば良いと言った部長と同意見であり、もし落ち込んでいるのなら気にするなと言いたかっただけだ。
お礼や謝罪等を返されるならまだ理解は出来るが…
まさか怒られるとは。
「…え、なに?キレ散らかして、適当にやりやがってこの野郎絶対許さねぇ!!とでも言って欲しかったのか?」
「…ぃや、それは、なんか違うな。…なんだろ」
「なんだろって、お前なぁ…」
難しい顔をして俯き考え込む様子に呆れてため息も出ない。理由も分からず逆ギレするのは止めていただきたいと思う反面、市ノ瀬の言動の真意に思い当たる節がないわけではない安積は最早いっそ微笑ましいとさえ感じていた。
『真剣にやってくれてるからこそって思えば、怒る気もおきねぇよなぁー…』
心配そうに自分達を見守っている班乃へ心配ないと笑いかけてから、いまだ考え込んでいる市ノ瀬へと声をかける。
「別にどうでも良いって思ってるから簡単に許してるわけじゃねぇよ。もちろんさ、一生懸命やって来たから。すごく残念だし悔しいって気持ちはある。でもそれと同じくらい良い勉強になったなって気持ちm」
「なんだそれ。嫌味かよ」
「あーもう。どーしてそうひねくれて捉えるかなお前は。ちげぇよ、ばーか」
「ばっ…!」
「演劇ってさ、1度始まれば俺等は裏方に手は出せないしその逆もそうだろ。完璧にこなしてくれる、ミスがあってもフォローしてくれるとかさ、そういうお互いの信頼感が大事なんだなって、そう改めて気づかされたんだよ」
「……」
「だからそうなれる為には、あれくらいのアクシデント乗り越えられる位じゃないとじゃんっ?だから、俺も良い経験になったって事っ!」
「…お前」
拳を握り拳ニカッと笑った安積に返す言葉が見つからない。
客席に居た人物に意識を奪われ、思わず立ち上がった時肩にぶつかったライト。 当たってはいけない場所を照らす照明に、情けない事に頭が真っ白になった。
この状況を打破するにはどうすれば良いのか…言葉もでないまま視線を向けた先輩も、悔しそうな表情で頭を左右に振った。
この状況だと、役者に任せるしかない。
そう呟いて舞台を見た。
役者の動きを見てどうにか台本通りに戻さないと。
唾を飲み込み祈る気持ちで舞台を見れば、ヨロヨロと立ち上がった安積がもと居た場所、ヒロインの前へと再び戻り、よく通る声で叫んだ。
その動きは、安積がなにを考えどうして欲しいのか、細かな表情が見えない舞台袖でも伝わる程でー
あの瞬間は…絶対本人には言わないが、カッコいいとさえ思ってしまった。
そして、それは今もー
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