329 / 1,142
- 16章 -
- 本番と波乱 -
しおりを挟む「うわぁ…人いっぱーい」
学生の発表だしそこまで人は集まらないだろうと思っていたのだが、完全に見くびっていた。
ホール内はほぼ満席状態。これならそんなに心配して変装なんてしなくても良かったんじゃないか…そんな事を思いながらも、空いている所を探して席についた。
幕は閉まっている状態。 きっと今頃裏では準備をしているのだろう。まだ開くまでは時間がありそうなので、受付で貰ったパンフレットを開いた。
そこには出演者の顔写真が載っていて、安積や班乃も勿論あった。
「あは、なにこの顔w」
写真を撮った時余程緊張していたのだろう。 安積がとてもひきつった笑顔で写っている。
普段通りに笑っていればモテそうなのに。
…主に御姉様方に(笑)
一方、班乃に至ってはいつも通り涼しい顔で写っていた。 この平常心を異母弟にも少しだけで良いから分けてあげて欲しい。
兄心からそんな事を考えている中、舞台裏では今まさに静創学園のメンバーが円陣を組んでいる真最中だった。
「舞台に上がったならそこに居るのは自分ではないっ! そこに居るのはその世界に居る人間だ! 自分を捨てろ! なりきれっ!」
肩を組ながら部長の話を聞く。
「キャストだけじゃないっ!音響、照明、裏方達も舞台を作り上げる為にはなくてはならない大切な仲間だっ! 皆で力を合わせて最高の舞台を作り上げよう!」
掛け声を上げ気合いを入れ、それぞれの配置につく。
誰もが役に入り込み無言になる中、市ノ瀬は一歩引いた処からそれを眺めていた。
練習の時から感じていたが、この演劇部は中々アツい。部員全体がやる気に満ち、1人1人かなり努力をしている。
中学の時の文化部なんて、ただ集まって何となく部活動をしながら遊んでいるだけだったのに。
高校になるとこんなにも違うものなのか…
『…悪くはないな』
高校生の部活でどれだけの経験と知識と技術を得られるかは分からないが、ここで最大限の努力をすれば将来に繋がると素直に思えた。
「やってやろうじゃん」
1人呟いて自身も配置に着く。今回は裏方だが努力次第で次回は舞台に上がれるかもしれないと思うと、武者震いにも似た震えがした。
…それにしても。
男子校なのだから女役だって当たり前に男だ。 高校生にもなるとそれなりに体が出来てくるので正直男役とのバランスも難しいし、それ以前に女装したオカマに見えなくもない。
そんな中、一際目立つ後ろ姿を眺める。 綺麗に着飾り、ヘアメイクを完璧に施した後ろ姿。他の部員達より頭一個分は低いであろう身長に、線の細い体格に加えての撫で肩。
普段を感じさせない凛とした雰囲気を纏っている。
最初に見たときは誰か分からなかったくらいだ。
「馬子にも衣装。 チビでモヤシッ子も馬鹿に出来ないもんだな」
衣装に身を包み落ち着き払っている班乃は普段通り格好良いし、自分が今同じ舞台に立てないのが少しばかり悔やまれた。
だが、裏方だって大事な役割なのは理解している。
開演間近の舞台を見下ろしながら、ライトを握る両手に力を込めた。
「静創学園演劇部による、舞台、蓮の華、間もなく開幕です」
舞台裏、ホール内に響くアナウンスが流れ開幕のブザーが鳴ると、静かに幕が上がった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。



ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる