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- 16章 -
-本番と恋の始まり-
しおりを挟むそれぞれ注文した物を食べながら市ノ瀬が話し出すのを待っているのだが、急ぎ足で来た割には一向に口を開こうとしない。
なまじ安積と班乃は撫子の君、月影に関しては良く知っているので迂闊に自分達から触れることは出来ず…
「あ、ピクルス入ってる…」
「入ってないのってあるんですか?」
「どうだろ?このすっぱい感じ、どうも苦手でさぁ」
「まぁ、癖はありますよね。僕は好きですけど」
「そう? じゃぁ……あーんしてあげようか?」
「えっ? えぇー……?」
「冗談だって、そんな引かないでよw」
引いたわけじゃない。急な嬉しい申し出ににやけそうになる顔を咄嗟に抑え、ぎこちない表情になってしまっただけだ。
しかしそんな事は言えるわけもなく、誤解は誤解のままスルーする事にし当たり障りない話をしていると、意を決したように顔を上げた市ノ瀬がようやく声を上げた。
「明たちはさ、撫子の君の事、知ってるよな?」
「えぇ、もちろん。でも僕達だけではなく、静創学園で知らない人は居ないと思いますけど…」
「今日、学に少し聞いたんだけど…学校の七不思議って言われてて、その顔も声も正体も、誰も知らないって」
「まぁ、そう、だな」
正しくは “そうだった” だが。
「ってことは、明達もそうってこと、だよな?」
「そう?」
「だから、顔も声もってやつ」
「「それは……」」
続く市ノ瀬の質問に2人は視線だけを合わせ、お互いうっかり口を滑らせていなようにと声にならない注意喚起を交わす。
『『見たことあるもなにも…』』
『自分の兄貴だし、しょっちゅう家にも来るし』
『入学早々自分から声かけちゃいましたし、色々とお世話にもなってますし』
『『なにより、何度かご飯食べに行ったりしてるしなぁ…』』
しかし緘口令を引かれている以上、そんな事言えるわけがない。気を取り直し極めて明るい表情を作った安積は、口裏を合わせるように班乃へしっかりと視線を向けた。
「さぁ、俺はないけど。 ねっ、あっきー?」
「そうですね。僕もないです」
「……そう」
そして再び口を閉ざした市ノ瀬を、安積は背中に流れる冷や汗を感じながら眺める。班乃はともかく、自分が口を滑らしてしまいそうで怖い。
絶対自分から口は開くまい…そう心の中で決心を固めていると、市ノ瀬がなにやら興奮気味に机に両手を打ち付けた。
「…俺、俺さっ! 見たんだ、撫子の君の顔っ!」
「「……えっ?」」
「ぇっ? 今、なんて言いました?」
「だから、見たんだって! 撫子の君の顔っ!」
「まじかよ…?」
「嘘ついてどうすんだっ!」
『なにしくじってんだよ聖っ!』
よりにもよって、市ノ瀬なんて面倒くさそうなやつに、と心中悪態をつく。なんだか安積達に正体を明かしてから行動が大雑把になってる気がする。
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