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慰弦

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- 16章 -

-本番と恋の始まり-

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「じゃぁ、明日は9時に学校集合、最後の通し練習をして、12時には学校出て会場に向かいます。 泣いても笑っても明日が本番なので、悔いのないように頑張りましょう」


そんな部長の挨拶と共に、本番前日の練習は終わった。 今回の台本はかなり苦戦したが、今日の練習の限りだと明日の本番に多少自信を持って挑めそうだ。


「今日の通し練習、完璧でしたね」

「やっぱりそう思うっ!?」


帰路が同じ方向の部員達と駅に向かう最中、肩に手を置き完璧だと言った班乃の言葉に、安積が嬉しそうな笑みを浮かべた。


「本番終わるまで気は抜けないけどさっ、自分でも今日の練習は良くできたと思ってっ!これも根気強く練習付き合ってくれたあっきーのおかげだよっ!ありがとうっ!!」


ありがとうと無邪気に笑う姿は、一緒に頑張ってきて良かったと思わせるのには十分過ぎる要素を備えていた。


「いえ、僕も貴方が付き合ってくださって凄く助かってますから。いつもありがとうございます」


それに、練習と称して安積と一緒に居られるのをとても喜ばしいと思うのは否定しようがない。

これは純粋に一緒に居て楽しいと思えるからで、よこしまな気持ちはない。

…少ししかない。

安積への気持ちを諦めると決めたあの日から、少しづつではあるがなんとか気持ちの整理はつき始めていた。

恋人、友達、親友。どんな関係も上手く当てはまりはしないが、それがなんであれ自分にとって大切で特別な存在であるのは変わらない。

言葉に出来ない関係だって、自分がそれで納得できるのであればそれで良い。


「それよりさ…」

「えぇ…何かあったんでしょうか」


それよりと言った安積の本題を聞く前に返答したのは、それしかないと言い切れるほど様子がおかしい人物が居たからで…

動いた2人の視線は、自然と同じ所に集まった。


「なにかミスするってことは無かったけど…なんつーか、心ここに有らずって感じだったよな」

「そうですね。 ずっと遠い目をして、何か考え込んでいる感じでしたね」

「「……………」」

「……ねぇ、あっきー?」

「なんです?」

「お腹、すかない?」

「そうですね、今日は結構動き回りましたし。 軽く何か食べに行きましょうか」

「よしっ、じゃぁ本番前の最終会議もやっちゃお!」

「えぇ」

「そしたらー…」


約束を取り決めた安積は素早く班乃を離れ歩く速度を早めると、数メートル後ろでぼんやりと歩いていた人物、市ノ瀬の腕を掴んだ。


「…なんだよ」


また考え事をしていたのだろう。捕まれた腕を振りほどこうとしない事や、少し間の空いた返事がそれを物語っていた。


「今からさ、あっきーと一緒にマック行くんだけど」

「睦月も一緒にいきません?」


安積の後ろから追いかけてきた班乃の誘う言葉に少し悩む素振りを見せた後、小さく頷くと行くと呟いた。
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