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- 15章 -
-謝罪と始まり-
しおりを挟む「おやすみなさい」
「…おやすみ」
風呂に入ったらきちんと話をしようと決めたはずなのに、なんでどうしてこうなった。
…と聞かれれば、どう切り出せば良いのか悩んでる内に時間が過ぎていきこうなったとしか言えない。
ベッドの上から少しだけ顔を覗かせ床に敷いた布団で眠る班乃を見るが、目を閉じて静かな息をたてている様子からは寝ているのか起きているのか判断がつきにくい。
「…あっきー?」
試しに名前を呼んでみるが、閉じられた目蓋が開くことも返事が返って来ることもなかった。
『…寝ちゃったか』
でも、寝ている今が丁度良いのかもしれない。
返事が返ってくる分けではないが、今の安積には吐き出す事が自分の気持ちを楽にできる方法に思えた。
「あのさ…この前、川で指輪探してた時さ…」
静かに喋り出し、もう一度班乃を見た。
相変わらず、静かに呼吸音だけを響かせている。
「あっきー俺に…キス、した?」
やはり、返事はない。
「あの後あっきーいつも通りだったから、気のせいかなって、偶然当たっちゃっただけかなって思ったんだけど……」
意味はないかもしれない。相手に伝わらない言葉は、なんの意味も持たない。
それでも声にだして言ってみれば、自分の気持ちを確かにする事ができる気がするから。
「気のせいじゃないなら、なんだけど……俺、あっきーの事は好きだよ。 優しいし、カッコいいし、なんでもそつなくこなすし、凄く尊敬してる。すごいなって… キスされた事だって、嫌とか気持ち悪いとかは思わなかった。 でも何か違うんだよね…上手く言えないんだけど、あっきーは…大切な友達、だから」
勿論返事はない。
「それに、あっきーには俺なんかもったいないよ。 もっと良い人、絶対居るって」
そこまで声に出してみると自分の中で燻っていたモヤが晴れ、気持ちも幾分か明確になり整理がついた気がした。
「面と向かって言えないあたり、俺って結構意気地なしかも」
でも、今はこれで良い。
班乃がなんでもないように接してくるのなら、あえて自分から触れることはないだろう。
もし班乃からこの話題をふられた時は、今言った事を答えれば良い。その時は今度こそちゃんと伝えられるはずだ。
傷つけてしまうかもしれないけれど、嘘をついて関係がギクシャクしてしまうよりは、きっと絶対良い。
規則正しい寝息を立てている班乃をぼんやりと意味もなく眺めてみる。
寝ている時の無防備な顔。 普段より歳相応な顔に見えて、この気を許してくれている感が安積は好きだった。
友達や親友に順位をつけるわけではないけれど、自分と班乃はきっと少しだけ、他の子たちよりもお互いが特別で大切な存在。
そんな感じなんだろう。
「…よし、寝よ」
そこまで声に出してみると自分の中で燻っていたモヤが幾分か晴れ、気持ちにも多少整理がついた気がした。
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